Intro
こんにちは。SmartHR人材育成部マネージャーの鈴木です。プライベートでは人材ではなく植物の育成や、ヒップホップなどが好きです。
このtimes_serizawaというコーナーはその名の通りSmartHR社CEOの芹澤が記事を書く場所ですが、わけあって今回は私鈴木がお邪魔しております。
というのも、8月にtimes_serizawaにて公開された芹澤の記事 『1on1の功罪について』は、非常に大きな反響を呼びました。その反応は、世の中の1on1に対する悩みや疑問の大きさそのものを表しているように感じられるものでした。
私もそんな反応を横目に、イチ読者としてどれどれと記事に目を通しました。
……が。
率直な感想として、その内容は賛同できる部分と疑義をもつ部分、両方があったのです。
その賛同と疑義について私の目線からお話させていただきたく、この場をお借りしているというわけです。つまりは人事の私からCEOへのアンサーです。
本題に入る前に、少し私と芹澤さんの関係についてお話させてください。
私はSmartHRに入社してすでに丸7年が経過しています。定期的に1on1を行う環境にもすっかり慣れてしまいました。
この7年の間にはいろんなことがありました。
いちエンジニアとして入社したあと、現場リーダーやマネージャーを経て、全労務プロダクトのエンジニア組織全体を統括する立場になり、その後人事に異動して、いまは人材育成を司る部署のマネージャーをしております。
そしてSmartHRの最初の上長こそが、当時VPoEであった芹澤さんです。私をマネジメントに任命したのも、人事への異動を提案してくれたのも、芹澤さんなのです。
つまり私は芹澤さんとの関わりのなかでいろいろな挑戦の機会を得て、そしてそのコミュニケーションの多くは1on1のなかで行われました。
それなのに! いつしか私と芹澤さんの1on1に対する思いは、すれ違いを起こしてしまっていたのです……!
というわけで、本稿は芹澤さんに対してのアンサーであり、beef(※)を仕掛けにいったものです。
※ヒップホップの文化で、公の場での表現を通じた主張や対立を意味するスラング
元記事の『1on1の功罪について』を読まれていない方はコチラもお読みいただけるとより楽しめると思います。すでにお読みいただいた皆さまは、元記事への補足、そして続編としてもお読みいただければ幸いです。
芹澤さんの云う功罪への疑義
こんな記事を書いておきながら冒頭からなんなのですが、正直なところ私と芹澤さんで根本の考えが大きくずれているわけではありません。
惰性で1on1を行うことが最ももったいなく、きちんと効果測定をして見直そう、チューニングの方法は一律ではなくテーラーメイドでしていこう、というのは想いを共にする部分です。
では疑義を持った部分とはどこなのか? 大きくわけて、以下の2点です。
1on1の目的を限定的に捉えていないか
1on1をやめて根本的に解決する事などあるのだろうか
芹澤さんの「1on1にこだわる必要はなくべつの方法で担保すればよいのではないか」という考えに対し、私は「別の方法をゼロから構築するよりも1on1をうまくやる方が楽ではないか、そしてその伸びしろは容易に見つかる」という考えです。
前提:私が考える1on1の罠
元記事への疑義を書く前に、背景として1on1に関する私見を述べさせてください。
私は常々1on1には2つの罠が潜んでいると思っています。
ひとつめの罠:1on1という曖昧な名前
そもそも1on1ってなんでしょうか?
シンプルな問だけに、意外と答えるのが難しいのではないでしょうか。
字面をストレートに受け取ると「1対1で話すこと」ととれます。
これがひとつめの罠。名前が形式しか表しておらず、目的があやふやになりがち問題です。
大体のミーティングにはなんとか定例だとか、なんとか会議だとか、内容を表す名前がついているはずです。
ところが1on1は内容ではなく形式。1対1で話していれば、全部十把一絡げに「1on1」と表現されてしまいます。
コーチングしていようがティーチングしていようがメンタリングしていようが、説教していようが励ましていようが、キャリアの話をしていようがフリースタイルラップしていようが、業務相談を受けていようがMCバトルしていようが、全部1on1と表現できてしまいます。
「1on1やってますか?」
「はい」
この会話が成立するハードルは、予定をいれて話すだけで越えられるとても低いものです。ただしその中身のばらつきは非常に大きくなる可能性もあります。
ふたつめの罠:健康診断がしづらいという性質
そしてもうひとつの罠が、健康診断がしづらい問題です。
1対1という形式で話す以上、その内容を他の人が知ることは基本的にはありません。
つまりブラックボックス化しやすいために健康状態が判断しづらく、1on1が有効に機能していない状態になっていたとて、アラートを検知することが非常に困難です。
また同様に、ブラックボックスとなっているため「自分がこれまで受けてきた1on1」がお手本になりがちです。もしよくない1on1しか受けたことがない人がマネジメントを始めたとしたら、かつ能動的に知識とスキルを身に着けることもなかったとしたら、同じようにその1on1は続きます。
さらにその受け手も「こういうものか」と疑念を持たなくなり、負のループに陥ってしまうのです。
元記事への疑義と罠への処方箋
さて、前述の『1on1の功罪について』で私が疑義をいただいた部分は、この2つの罠に大いに関係しています。
ではどのように対処すべきなのか? 疑義の詳細と罠への処方箋を見ていきましょう。
疑義1:1on1の目的を限定的に捉えていないか?
元記事では、1on1を「業務をうまく進めるための手段」という切り口をメインとして取り扱っています。
しかし本来、1on1で扱うトピックは業務の推進や課題解決に留まらず、思いのほか広いものです。一面だけを見て1on1の価値を決めるのは、やや早計だと考えています。
これは非常によくあるアンチパターンですが、目的があやふやだと必然的に「緊急度も重要度も高い喫緊の業務相談」ばかりが1on1のメイントピックになってしまいます。
そしていつしか業務相談が1on1の目的として鎮座するようになり、少し落ち着いたときには「特に業務相談ないな…? 今回はスキップでいいか」となってしまうのです。本来は、そういうときこそ普段話せないような「重要度は高いが緊急度の低いトピック」を扱うチャンスにも関わらず、です。
処方箋としてはシンプルな話で、目的を明確化しましょう。もし全社で1on1の効果を標準化したいのであれば、会社として用意するのもよいでしょう。
個人的に、ヤフー社の整理がシンプルかつ網羅的でわかりやすいと思っています。
ならって整理するならば、私の場合は以下のようなトピックを扱っています。
1つ目は、メンバーがその期の目標を達成するためのトピック。
壁打ちや障害点の排除、大きな問題をチャンクダウンするお手伝いもあれば、仕事の意味づけや動機づけもここに含まれるでしょう。
2つ目は、内省をサポートするトピック。
内省を習慣化する意味もありますし、一人ではなかなか出てこないような視点も、対話によって気づくことがあります。
そして3つ目は、キャリアを主体的に考えられるようになってもらうためのトピック。
いまやっていることをどう感じていて、なににつなげるのか? 将来どういう機会を得たいのか? そのためにいまなにをすべきか? 足元の業務だけではなく、長期的な目線で関わることも大事です。
具体的な目標の「達成支援」、部下の自己認識を促す「内省支援」、そして「キャリア自律支援」の3つの要素を1on1で満たしていこうと伝えています。
引用: ヤフー「選ばれる会社づくりの軸になる1on1という文化とキャリアオーナーシップ」
逆に「案件管理などの直接的な業務の話は1on1ではしない」と、明確に「扱わないこと」を定めている会社もあると聞きます。
私もチームで話せばよいことはチームで話すべき、というスタンスをとっています。不透明な意思決定や情報の非対称性は、非効率的なばかりか不信感の源にもなり得ます。
そしてより目的を明確にするために私がおすすめしているのは、きちんとセットアップをすることです。
ここでいうセットアップとは「1on1をどういう時間にするか相手と合意すること」です。
1on1をする関係になった時点、あるいは半年や1年ごとに、1on1ではどういうことを目的としてどういうことを話し、どんな関わり方をするのか? それを相手と話します。
私の場合は評価サイクル(SmartHRでは半年に1度)に合わせて、大体のトピックを決めて1サイクルとしています。

また毎回の1on1の冒頭にもセットアップをしています。たまには少しはずれて、ただもやもやを聞いてほしいだけの日も、雑談した方がよい日もあるでしょう。なにも難しく考える必要はなくて、今日はどんな時間にするか? それを最初にお互いで話せばよいだけです。
疑義2:1on1をやめて解決する事などあるのだろうか?
元記事では、「1on1の効果を確かめる手っ取り早い方法として、思い切って四半期くらい1on1をやめてみる」という手法が紹介されています。
しかしこれで得られるのは、短期的なリソース捻出くらいだと私は考えます。
例えば効果がゼロの1on1が行われているとして、中止した四半期後になにが起こるのか。ゼロがゼロのままなので「特に変わらなかったね、不要だね」といった判断がくだされるかもしれません。
その場合、あらためて1on1のもつ意義やポテンシャルに気がつくことは難しいでしょう。「1on1に効果がないこと」と「効果のない1on1しかできていないこと」は明確に違うのです。
もちろんこれまでにも述べた通り、1on1はただの手段です。他の方法で目的を担保できるのであれば、1on1にこだわる必要はありません。
しかし目標設定や評価、日々の達成支援やキャリア面談、信頼関係の構築など、マネジメントとして必要なスキルと効果的な1on1に必要なスキルは、重なる部分が非常に多いです。なんなら「1on1をしていなかったけど必要な関わりを随時していたら、ほぼ定期1on1になっちゃった」という状態すらあるかもしれません。
そしてノートにリリックを書くだけではラップはうまくならないように、1on1をしないまま1on1スキルを向上させることも難しいでしょう。
それ故に私はやはり、1on1の効果測定をして、継続的にチューニングやスキル向上をしていくほうが建設的な未来が開けるのではないかと考えます。スニーカーとスキルは毎日磨いた方がよいです。
前段のふたつめの罠で健康診断がしづらいことを述べましたが、やり方はいくつもあります。
例えばそれこそ、1on1で階層を飛び越えた上長や横のラインのマネージャーに「メンバーは自分との1on1についてどう思っている?」を聞き出してもらうとか、あるいはアセスメントを用意するといった方法もありますし、今であればAIでの診断も可能でしょう。
私のおすすめは、1on1相手と一緒に半期を振り返ることです。
どういう関わりがその人にとって助けになったか? うれしかったのか? 逆にいやだったり、成長阻害の原因になっていたことは? 直してほしいことは? そんな会話をすることで、継続的によい関係を築き、1no1をより効果的な場にしていくことができます。
元記事では「部下からすると上司がやってくれた1on1が役に立たなかったとしても、それを率直にフィードバックすることは相当躊躇われる」とされています。
しかし上司から「なにかあったら言ってくださいね」と言われて、部下が必要なタイミングでフィードバックをすることは難しくても、「今後のために、今日はお互いフィードバックする時間にしましょう」と上司にセットアップをしてもらえれば、踏み込んで言えることもあるでしょう。
Outro
前述の通り、1on1とはただの手段です。
しかしその手段は、有効に使うことができればマネジメントをするうえでとても強力な武器となりうるポテンシャルを秘めたものです。
『1on1の功罪について』では「ピープルマネジメントはテーラーメイドで行うのが理想」と言及されており、これは私も同じ考えです。
しかしそのテーラーメイドの形はどうやって決めましょう? スーツを仕立てるときに採寸するように、相手の状況を正確に把握することが必要です。
怖いのは、勝手にサイズを押し付けることです。この人はシニアだから放置で大丈夫、キャリアに迷わない人だからキャリアの話は不要、プロフェッショナルだからいちいちアクノレッジメントしなくても大丈夫。
そうやって一方的に判断して、メンバーは自己効力感ややりがいを喪失し、パフォーマンス低下や離職につながってしまった。しかし上長の目には「前触れもなく急に辞めてしまった」と映る。というのはよくある話です。
テーラーメイドのマネジメントには、対話が必要です。そして対話の軸になるのが1on1です。
1on1の目的をしっかりと定め、惰性で続けずに健康診断をして、継続的にお互いによくしていく。
そうして1on1を効果的な時間にしていくことが、効果的なマネジメントのための1つの道筋になるのではないでしょうか。
元記事に加え、本稿が1on1を多角的に見つめ直すきっかけになれば、そしてよりよいマネジメントのヒントになれば幸いです。
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