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「働く体験全体」を支えるプロダクトへ ─ SmartHRとクロスビットが目指す、真の業務効率化がつくる新しい価値

    SmartHRは2026年4月、シフト管理SaaS「らくしふ」を展開する株式会社クロスビットをグループ会社として迎えました。勤怠・給与領域のプロダクト提供を本格化するなかで、現場の働き方に深く関わる「シフト管理」は、重要なテーマのひとつになっています。今回のグループジョインにより、両社はシフト・勤怠・給与を一気通貫でつなぎ、現場とバックオフィスを横断した新しい業務体験の実現を目指していきます。

    今回は、SmartHR取締役CEO芹澤さんと、クロスビット代表取締役小久保さんに、M&Aの背景と課題意識、両社が描くこれからの「働く」の未来、そして理想的な「働く体験」そのものの再設計について伺いました。

    クロスビット 小久保さんと SmartHR芹澤さんの写真。
    株式会社クロスビット 代表取締役 小久保 孝咲(写真左):早稲田大学政治経済学部卒。在学中に転職エージェントにて法人営業マネージャーを経験。人材業界から日本の人材関連課題を見る中で、テクノロジー活用による人材リソースの最適配分の可能性を強く感じ、起業を決意。2016年に株式会社クロスビットを創業。クラウド型シフト管理システム「らくしふ」を主軸に、「らくしふ シリーズ」にてシフトワーカーを擁するあらゆる業種の、働く現場を包括的に支える事業を展開。
    
    株式会社SmartHR 代表取締役CEO 芹澤 雅人(写真右):2016年、SmartHR入社。2017年にVPoEに就任、開発業務のほか、エンジニアチームのビルディングとマネジメントを担当する。2019年以降、CTOとしてプロダクト開発・運用に関わるチーム全体の最適化やビジネスサイドとの要望調整を担う。2020年取締役に就任し、2022年1月より現職。

    勤怠・給与・シフトをつなぎ、“本当のオールインワン”へ

    —今回のM&Aの概要について聞かせてください。

    芹澤:SmartHRでは2025年から、勤怠管理・給与計算といった、労務管理のいわゆる本丸となる領域のプロダクト提供を本格化しています。これらの導入が進むなか、お客さまから非常にニーズが高いのが、シフト管理の領域です。

    当初は他サービスとの連携を検討していましたが、単純なデータ連携だけでは、お客さまの本当の課題は解決できないと感じるようになりました。給与計算には正しい勤怠データが必要で、その勤怠を正しく管理しようとすると、さらにその前段にシフト管理がある。すべてがつながっている、そうした構造が見えてきたことで、シフト管理の重要性をより強く認識するようになりました。

    連携ではなくやはり自社サービスとしてしっかり提供できる形をつくりたい。そう考える中で、クロスビットさんとご縁があり、今回のM&Aに至りました。今回のM&Aは、勤怠・給与・シフトを一気通貫でつなぎ、本当の意味での「オールインワン」を実現していくためのものです。

    —グループジョインすることになったクロスビットについて教えてください。

    小久保:クロスビットでは、「らくしふ」というシフト管理に特化したプロダクトを展開しています。創業以来、一貫してシフト管理というドメインに向き合ってきました。

    シフト管理機能は、勤怠管理システムなどの一機能として提供されるケースが多いです。しかし、中途半端な機能では現場の期待には応えられず、「これならExcelのほうがいい」と結局現場の運用が戻ってしまいます。だからこそ僕たちは、「現場のニーズを汲み取った、本当に使いやすいプロダクト」を徹底的に追求してきました。約10年以上この領域に取り組んできた結果、2024年には国内シェアNo.1(※東京商工リサーチ調べ(2024年4月時点)シフト管理クラウドサービスの有料サービス導入事業所数)を獲得しています。

    また、ここ数年ではシフト管理だけでなく、「働く」に関わる周辺領域にもサービスを広げています。たとえば、離職分析や従業員アンケートを通じた定着支援、さらには退職者とのリレーションマネジメントなどです。大企業では年間数千人単位で人が入れ替わるケースも珍しくありません。だからこそ、在職中だけでなく退職後も含めて従業員との関係性をどう築いていくかが重要になる。クロスビットは、そうした「働く体験全体」を支えるプロダクトづくりにも取り組んでいます。

    クロスビット 小久保さんが話している写真

    —M&Aにあたっては、お互いどのようなところに魅力を感じたのでしょうか。

    芹澤:最初にお話ししたのは、M&Aのディールが本格化する半年〜1年くらい前だったと思います。シフト管理市場についてヒアリングさせていただいたのが最初の接点でした。

    その時の印象として強く残っているのは、この領域に対する圧倒的なドメイン知識です。現場で何が起きているのか、業界としてどんな課題があるのか、さらに「本来シフト管理システムはどうあるべきか」という理想像まで含めて語られていて、あるべき姿と現実のギャップを非常に深く理解されていると感じました。

    その後、ディールが本格化して改めて感じたのは、「本当にプロダクトが好きな会社なんだな」ということです。お会いする方みなさんがプロダクトに強い熱量を持っていて。僕たち自身もかなり「プロダクトが好き」な会社なので、親和性を感じましたね。

    小久保:SmartHRは、自分が事業を始める前くらいからずっと見ていた存在でした。事業が伸びていく様子もそうですし、ファイナンスの場でも常に名前が出てくる会社で、「どうやったらこのスピードで事業を伸ばせるんだろう」と。以前からリスペクトしていた会社です。

    また、SmartHRにいる方たちも本当に魅力的なんですよね。採用の場で出会った方や、以前一緒に働いていた方がSmartHRに入社していたりもして、外から見ても中から見ても、「いい会社だな」という印象がずっとありました。

    芹澤:そう言っていただけると嬉しいです!SmartHRにジョインするにあたって、代表としての思いも聞かせてもらえますか。

    小久保:クロスビットはこれまで、シフト管理という領域に集中して事業をつくってきました。一方で、専業でやっているからこそ、成長のスピードや時間軸がある程度見えてしまう感覚もあったんです。

    もっと事業を伸ばしていこうと思うと、シフト管理だけではなく、勤怠管理、給与計算や採用・育成、労務管理、給与支払いといった周辺領域にも広げていかなければいけない。ただ、それを自社だけで一気に進めていくには、顧客基盤の獲得や組織の面も含めて思うようなスピードでは進められないのも事実でした。一方で、僕らは「社会に本当に必要なものをつくっている」という感覚も強く持っていましたし、SmartHRと一緒になることで、単独では実現できなかったスピードで価値提供ができるイメージが持てたんです。

    世の中に同じものを重複してつくる必要はないと思っています。だったら、同じ基準や価値観を共有できる会社と一緒に、より大きな価値をつくっていくほうがいい。そう考えたことが、今回の決め手になりました。

    クロスビット 小久保さんと SmartHR芹澤さんの対談中の写真

    「速い馬」ではなく、「車」をつくりたい ─人給基幹システム領域での挑戦

    —クロスビットのシフト管理領域での強みを生かして、解決していきたい課題はどのようなことでしょうか。

    芹澤:勤怠や給与、シフト管理といった領域は、10年、20年前からシステム化が進んでいます。給与計算もデジタル化されていますし、勤怠管理システムも入っている。しかし、それでもなお、とても多くの煩雑な作業が残されているというのが現状です。

    つまり、この領域にはまだまだ効率化や自動化の余地が残されているということです。一方で、それを本当の意味で実現できる理想的なソフトウェアは、まだ存在していないと思っています。これだけテクノロジーが進化しているのに、なぜか昔の業務の延長線上から抜け出せていない。そこをどう次の業務体験へ進化させていくかが、僕たちがいま一番取り組みたいテーマです。

    「顧客は速い馬を求めるけれど、本当につくるべきなのは車だ」というフォードの話がありますが、今の勤怠・給与・シフト管理は、速い馬をどんどんつくっている状態に近い感覚があります。既存の仕組みの延長で機能を高めていくだけでなく、僕たちはそろそろ「車」をつくりたいと思っています。

    そのためには、やはり圧倒的なドメイン知識と、この領域に対する情熱が必要です。今回ご一緒する中で感じたのは、クロスビットのみなさんが、本気でシフト管理という領域に向き合っていることでした。多くの会社が「機能のひとつ」としてシフト管理を扱うなかで、クロスビットさんはそこに徹底的にディープダイブしている。こういう方々となら、本当に新しいものをつくれるんじゃないかと思ったんです。

    単にシステムをつなぐだけではなく、両社の知見やナレッジを融合して、これまでとは違う業務のあり方そのものをつくっていきたい。それを、この領域で実現したいと思っています。

    SmartHR 芹澤さんの写真。

    小久保:クロスビットがずっと目指してきたのは、「使いやすいシステム」をつくることだけではありません。「このサービスを契約してさえいれば、現場が理想的な状態で回る」という世界観です。

    たとえば、スタッフ一人ひとりの希望シフトや雇用契約、組織変更といった情報が常に最新の状態で連携され、その情報をもとに自然にシフトが組まれていく。誰かが都度データを修正したり、複数のシステムを行き来したりしなくても、業務がシームレスにつながっていく状態ですね。これまでは他社システムとの連携という形だったので、どうしても仕様上の制約がありました。でも、SmartHRの基盤と一緒になることで、もっと深いレベルでプロダクト同士を融合できるイメージがあります。

    また、AI時代になるほど、「人が頑張って運用する」こと自体が前提ではなくなっていくと思っています。働く人にとっては、意識しなくても以前より楽になっていて、精度も高く、生産性も上がっている。そんな状態をつくれたら、本当にやるべき仕事に集中できるようになると考えています。

    芹澤:AI時代におけるソフトウェアの価値については、SaaSベンダーとしてずっと考えていますね。いまは開発コストが大きく下がっていて、完成形が見えているものなら、ある程度誰でもつくれてしまう時代になってきています。

    だからこそ、これから価値が残るのは、やはり「難しいドメインを正しく扱うこと」だと考えています。労務領域と同様に、勤怠や給与、シフト管理は制度改正や税制変更などが頻繁に起こる領域です。手続きに必要な書類の形式も毎年少しずつ変わっていますし、それに正しく追随し続けなければいけない。そうした複雑な制度や計算を解釈し、ソフトウェアとして提供することには、今後も大きな価値が残ると思っていますし、そこには引き続きしっかり向き合っていきたいと思っています。

    AIは、ある程度「理想形」がわかっているものを効率化するのは得意です。でも、そもそも理想形そのものが定義されていない領域では、最初にそれを構想するのは人間なんですよね。だからこそ僕たちは、この領域における理想的な業務体験やソフトウェアのあり方そのものを、これからも構想し続けていきたいと思っていますし、しっかり投資していきたいですね。

    シフト管理から、現場の働き方を変えていく

    —クロスビットとSmartHRの協業を通じて、働く環境にどのような影響を与えていきたいと考えていますか。

    芹澤:SmartHRでは昨年、サービスビジョンを刷新し「worker-friendly」という言葉を掲げています。僕たちは、管理者だけではなく、全従業員にとって良いサービスをつくりたいと考えてきました。

    バックオフィスにまつわる業務は、管理者にとっては仕事の一部ですが、従業員からすると、本来の業務をしている途中に突然差し込まれるものです。引っ越しをした時の住所変更や各種申請などもそうですが、本流ではない業務だからこそ、できるだけストレスを減らしたい。そのストレスをどこまでゼロに近づけられるかが重要だと考えています。

    今回、シフト管理という領域に本格的に向き合うことで、現場で働く方々にとっても、より使いやすいサービスを提供していきたいと考えています。

    小久保:クロスビットが主に向き合ってきたのは、主に飲食やホテルなど、サービス業・ホスピタリティ業界の現場です。そこで取り組んできたのは、店長さんや支配人さんといった、「一番売上をつくる人」の時間をどう生み出すかということでした。

    現場では、本来もっと売上づくりや接客に集中したいはずなのに、シフト作成や調整、勤怠確認などの煩雑な業務にかなりの時間を取られてしまっている。結果として、売上をつくるために使える時間が削られているんです。

    シフト管理は単なるバックオフィス業務ではなく、現場の売上や顧客体験にも直結しています。人員が足りなければ回転率が下がりますし、逆に入れすぎれば利益が出ない。さらに、労務管理や人の相性、スキルの組み合わせまで含めて、現場では非常に複雑な判断が行われています。

    こうした判断を、もっと自然に、もっと高い精度で支えられるようになれば、現場の生産性はまだまだ高められるはずです。

    芹澤:企業や現場が、本来集中すべき事業成長や顧客体験により時間を使えるようになる。そこまで含めての価値を届けていきたいですね。

    小久保:飲食やサービス業は、構造的に給与が上がりづらい業界でもあります。店舗や営業所などの家賃や原材料費、人件費など、さまざまなコストがある中で利益を出していかなければいけない。そのなかで、現場の生産性を上げられなければ、どうしても給与にも還元しづらくなってしまいます。

    だからこそ、ソフトウェアによって業務をもっと楽にし、働きやすくし、生産性を高めていきたい。その結果として売上や利益が伸びれば、給与水準も上がり、採用もしやすくなり、さらなる事業成長につながっていく。そうした循環をつくっていきたいと考えています。

    芹澤:給与計算などの領域は、どうしても「効率化」の文脈で語られがちです。もちろん重要ではあるのですが、それだけだと、売上に直結するプロダクトに比べて投資が後回しになりやすい。

    ただ、シフト管理のような現場領域は少し違います。そこを改善することで、実際に売上や顧客体験にもストレートに影響を与えられる。

    小久保:実際、現場では「頑張って回している」「なんとか回っているからいいよね」と優先順位を低くされてきた側面もありました。でも、本当はそこに大きなロスがある。店長さんや支配人さん、施設長さんが本来やるべきではない作業に時間を使っているし、その結果、売上機会や働きやすさまで失われているケースも少なくありません。だからこそ、「シフト管理を変えることは、現場の働き方そのものを変えることなんだ」という価値を、もっと社会に伝えていきたいと考えています。

    クロスビット 小久保さんの写真。

    現場の暗黙知を可視化し、一人ひとりが活躍できる世界へ

    —今後、進めていく事業展開についても聞かせてください。

    芹澤:まず足元として取り組みたいのは、データ入力や、シフト・勤怠・給与のデータ連携です。これらのデータ連携は、大きな運用負荷になっていますから、まずはそこを徹底的に解消していきたいと考えています。

    使っている側からすると、「システムが分かれていることを意識しない」くらい滑らかにつながっている状態が理想です。シフトと勤怠が自然につながり、そのまま給与計算まで流れていく。これにより現場やバックオフィスの業務負荷はかなり削減できるはずですから、基盤をつくっていきたいと考えています。

    そのうえで、次のステップとして見据えているのが、より最適なシフト提案やタレントマネジメントの領域です。

    現場には、まだデータ化されていない暗黙知が数多く存在しています。たとえば、「この人がいると店舗がすごく回る」「このメンバーの組み合わせだと接客品質が上がる」といった感覚値です。そうした情報をきちんと可視化し、人材育成や評価にもつなげていけるようになると、働く体験そのものが大きく変わっていくと思います。

    小久保:現場ではこれまで、「夜は3人必要」といった形で、人が記号のように扱われることも少なくありませんでした。でも実際には、スーパープレイヤーが一人いるだけで店舗が回るケースもありますよね。

    現場ではよくわかっているのに、それがデータとして可視化されない。それでは評価や報酬に十分にはつながりません。もしそうした情報が自然に蓄積され、人事評価やシフト設計、キャリア形成まで連動していけば、「頑張った人が、きちんと評価される」状態をもっとつくれるはずです。

    その延長線上には、働き方や報酬のあり方そのものが変わっていく可能性もあると思っています。たとえば、繁忙時間帯や高いスキルが求められる時間帯には、より高い報酬が設定される。逆に、自分のペースで安定的に働きたい人には、別の働き方がある。そうした多様な選択肢を、ソフトウェアによって支えられるようになるかもしれません。

    芹澤:SmartHRには、「well-working」というコーポレートミッションがありますが、今回のグループジョインを通じて、バックオフィスだけではなく、店舗をはじめとした現場で働く方々にとっても、よりwell-workingな世界をつくっていきたいと考えています。

    クロスビットとともに、現場の頑張りや経験に依存していたものを、きちんと仕組みとして支えられる世界に変えていけたらと思っています。まずは、シフト・勤怠・給与を滑らかにつなぎ、日々の業務をもっと自然にすること。その先に、これまで見えていなかった個人の力や価値まで可視化され、一人ひとりがより活躍できる世界を実現していきたいですね。

    クロスビット 小久保さんと SmartHR芹澤さんのオフショット

    編集・写真/@okie

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