大学卒業後、キーエンスに入社し、営業としてのキャリアを築く。その後Amazon Japanにて、事業責任者としてPL管理や人材育成、事業戦略などの業務を経験したのち、DMM.comやスタートアップで役員として事業を統括。2025年6月、SmartHRにActing VPとして入社し、ミディアム・エンタープライズ事業本部を管掌、採用や育成にも携わる。
「日本を変える仕事がしたい」──次の挑戦にSmartHRを選んだ理由
——まず、これまでのキャリアを教えてください。
大学卒業が2001年なので、社会人歴は25年になります。前半の10年くらいは営業、その後の15年ほどは事業責任者としてのキャリアが中心です。
最初に入社したのはキーエンスで、社会人としての基礎はここで徹底的に鍛えられました。競合との差別化や経済合理性の訴求、意思決定者へのアプローチなど、ものごとを構造的に捉え業務を推進することの重要性を学んだ経験は今でも大きいですね。
その後Amazon Japanに入り、事業責任者としてPL管理や人材育成、事業戦略など、経営に近い仕事を経験しました。難しい事業の立て直しを任されたこともあり、メンバーとの対話を重ねながらチームを作り直していった経験は、今のマネジメントにもつながっています。
——経営への興味が芽生えたのはAmazon Japanからの経験がきっかけなのでしょうか。
もともと実家が商売をしていたこともあって、いつか自分で事業を動かす側に立ちたいという思いはずっとありました。
外資企業での経験はとても刺激的だったものの、どうしても本国からのトップダウン体制は否めません。私は娘が二人いますが、彼女たち次の世代が社会に出ていったときに、日本がもっと元気になっていてほしい、自分も仕事を通じて少しでもそれに貢献したい。そんな思いから、日本の会社で経営に携わっていく道を選びました。その後DMM.comやスタートアップで役員として事業を見た経験を経て、今に至っています。
——SmartHRへの転職はどんな経緯だったのでしょうか。
前職では中小企業向けのSaaS事業に携わっていましたが、日本全体を大きくそして早く変化させようとすると、大企業をも突き動かす必要があると感じ始めていました。大企業が変われば、その影響はサプライチェーン全体に広がる。働き方や生産性を本気で変えようと思ったとき、もっと影響力の広い、大きな領域で挑戦したいと思ったんです。
そんなタイミングで、SmartHRから声をかけてもらいました。人事労務から始まり、タレントマネジメント、情報システムなど、経営課題を解決するような領域まで事業が広がっている。またお客さまも大企業を含めて非常に幅広いです。経営陣から話を聞いたときには「これは面白いことになるな」と、ワクワク感が止まらなくなりました。転職のタイミングとしては早かったのですが、後悔するくらいなら、ワクワクするほうを選ぼうと思ってジョインすることを決断しました。

戦略も仕組みも、組織の動き方も変えないといけない─入社して感じた「カオスと手触り感」
——岩本さんの管掌範囲や役割について教えてください。
現在は、従業員数500〜2,000名規模の企業を担当するミディアムエンタープライズ事業本部を管掌しています。インサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセスまで含めて事業成長の責任を持つ立場です。
500名以下はグロース、2,000名以上はエンタープライズと分かれていて、その中間にあたる領域ですね。効率的な営業も求められますし、個社ごとの攻略も必要になる。難しさはありますが、いろいろな力を試せる総合格闘技のような面白さがある領域だと思っています。
現在の業務の7割は管掌事業本部の成長実現に関わる仕事で、残りはビジネス部門全体を横断するテーマを担当しています。
採用や育成の仕組みづくりにも関わっていて、2026年4月に新卒第1期生を迎え入れるにあたり、配属方針や育成プログラムの設計などにも携わっています。
——入社前に持っていたイメージと実際のギャップを感じるところはありますか?
入社前に抱いていたイメージは、すごくスマートでクリーン。目指す目標は高いものの、かなり完成度の高い会社ではあるのだろうなと思っていました。1,500名規模まで急成長し、もはやスタートアップというよりは大企業。仕組みやプロセスも整っていて、自分がバリューを出す余地が少ないんじゃないかとも考えました。
Amazonを辞めた理由の一つが、歯車感が強くなってしまったことだったので、またそういう環境だったらどうしようという不安は、正直あったんです。でも実際に入ってみると、全然違いました。めちゃくちゃ、カオスです(笑)。いい意味で、ですが。

——どんな意味でカオスだと感じたのでしょうか。
実際に入ってみて感じたのは、「カオスで、手触り感の塊だな」ということでした。
これまでのSmartHRは、マーケット自体が大きく、プロダクトの競争力も高くて、比較的“取りやすい領域”を中心に成長してきた部分があると思っています。たとえば、労務手続きを紙でやっている企業に対してペーパーレス化を提案する、ITリテラシーの高い企業がタレントマネジメントを導入する、いわゆるアーリーアダプターの方々に対して価値を提供していくフェーズです。マーケティングでリードを作って、インサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセスの分業・連携でアプローチしていけば、比較的順当に受注が取れる環境がありました。極端に言えば、戦略を細かく整備しなくても伸びていく余地がまだ大きかったフェーズだったと思います。
ただ、現在は明らかにフェーズが変わってきています。競合も増えていますし、お客さまの属性も、提供するプロダクトも多様化しています。そうなると、「どのお客さまに、何を、どういう順番で提案するのか」をきちんと設計しないと勝てない。お客さまごとに優先順位や経営課題を捉えて、攻略のストーリーを組み立てていく必要があるフェーズに入っていると感じています。
プロダクトも良いですし、マーケットにもまだホワイトスペースはありますが、いわゆる刈り取りやすい果実はかなり取り切ってきている。ここからもう一段成長しようとすると、戦略も仕組みも、組織の動き方も変えないといけない。そこをやり切るための戦略や仕組みが完全に整っているかというと、まだまだこれからの部分も多いです。だからこそ、やることが本当にたくさんあるんですよね。
入社したときに経営陣から言われたのが、「優先順位を決めて、好きにやってください。結果を期待しています」という言葉でした。これはすごくいい環境だなと思いましたね。やり方を自分で考えて、組織を変えて、事業を伸ばしていく余地がたくさんある。そういう意味で、想像していた以上にカオスでしたし、その分だけ面白いと感じています。
成長フェーズの転換で見えてきた、組織の変化と向き合う
——入社後、実際に組織を見て課題を感じたのはどんな点でしょうか。
組織が急拡大していることもあって、部署間の摩擦や役割のズレ、評価の認識のズレは起きています。これはどんな成長企業でも起きることだと思いますが、SmartHRも例外ではありません。
また、プロダクトが増えてきたことで、連携が必要な場面も増えました。プロダクトごとに専門チームがあり、協力しながら進める必要があるんですが、リソースは限られているため調整が難しいこともあります。
こういった様々な要因から、現場はがんばっているのに結果が出ない、という状態になってしまうこともある。だからこそ、戦略やルールを整備して、組織としてどう勝つのかをはっきりさせる必要があると感じました。
——そうした課題に対して、どのように向き合ってきたのでしょうか。
SmartHRのバリューの一つに「ためらう時こそ口にしよう」があります。論理的におかしいと思っても、自分の組織ではないから強く言えない、ネガティブなフィードバックを遠慮してしまう。そんな空気を勇気を持って取り払っていこうというものです。
私がまずやったのは、摩擦が生じている部署を集めて、とことん現在感じている問題点や課題を言い合う場をつくることでした。
この会議室の中では遠慮しない、名前を出してもいいから全部話そう、と決めて、徹底的に議論してもらいました。ぶつかることもありましたが、結果、関係性はむしろ良くなりました。
また、話し合って終わりにしてしまうと意味がないので、そこから必ず仕組みに落とします。評価制度を変える、ルールを変える、会議体を変える、プロセスを変える。感情の問題で終わらせずに、仕組みとして解決するようにしています。
たとえば、インサイドセールスの目標をより受注に近しいKPIに置き換えたり、マーケティング部門のヘッドと定期的に戦略議論する会議体を設置したり、商談で得た重要な情報がシステムに有効的に取り込まれる仕組みづくりなどに取り組みました。
結果、事業部で年度目標を無事達成できました。組織の動き方を変えると、成果も変わるんだという手応えはありましたね。
——組織のルールや評価の仕組みを変えるような取り組みには、コンフリクトも起こりやすいと思います。そうした変化を進めるうえで、SmartHRのカルチャーが影響していると感じることはありますか。
一番感じているのは、「本質志向」の強さですね。議論でぶつかることがあっても、最後は必ず「事業としてどうあるべきか」に戻っていくんです。部署の都合や個人の立場ではなく、事業として正しいかどうかで判断しようという空気があるので、結果的に前に進める。
一度、風穴を開けてフラットになんでも言える環境を用意したことで、メンバーもさまざまな思いを遠慮なく口にし、「どうあるべきか」に向けた前向きな提案がどんどん出てくるようになりました。
意思決定も非常に速く、会議を何度もやり直すことがほとんどないんですよね。議論はフラットにやるけれど、その場で決める。時間に対する意識がすごく高い会社だと思います。論理性と合理性が通れば任せてもらえるし、逆にそこが通らなければ通らない。それはすごく健全だと思っています。
だからこそ、事業を動かしたい人にとってはすごくやりやすい環境ですし、まだまだ変えられる余地も大きい。個人的には、そういうフェーズに関われているのが一番面白いですね。

——こういったカルチャーを生かしながら組織を成長させていくために、岩本さんが意識していることはどんなことですか。
私は新しい環境に入ると、最初はデータや資料を見て仮説を立てるんですが、実際に当たっているのは3割くらいで、残りは外れていることが多いんですよね。そのギャップを埋めるために、できるだけ現場に触れるようにしています。メンバーとの1on1を重ねたり、会議に参加したりしながら、状況の解像度を上げていって、戦略や優先順位を少しずつ修正していく。そういうプロセスはかなり大事にしています。
もう一つ意識しているのは、大きなビジョンから逆算して話をすることです。部署ごとの目標や自分の評価の話だけをしていても、なかなか人は動かない。そもそも自分たちは何を目指してこの会社にいるのか、事業としてどこに向かおうとしているのか、その前提を揃えたうえで、「その未来を実現するなら、今変えないといけないことは何か」という形で落とし込んでいくようにしています。
それでも、日々の業務の中に埋もれている課題はなかなか表に出てきません。しかし実際、ワークショップなどであえて場をつくって問題点や違和感を出してもらうと、驚くくらい出てきます。
業務のやりづらさや非効率なプロセスは必ずどこかにあるので、それを見つけて、声を上げて、仕組みとして変えていく。その積み重ねが組織の強さにつながると思っていますし、組織のみなさんにも、さらに当事者意識を持って、自分たちで変えていくという感覚を持ってもらうことが大切だと考えています。
課題発掘の取り組みの一つとして、チーフ以上の方向けに、自由に対話ができる「岩本オフィスアワー」を毎週設けています。その時間は、戦略の壁打ちでもいいですし、現場で起きていることの共有でもいい、なんなら文句を言い続けてもいい(笑)。そういう対話の機会を増やすことで、こちらの解像度も上がりますし、メンバー側も遠慮せずに声を出しやすくなります。
カルチャーとして本質志向やフラットさがあるのは確かですが、それを活かすためにも、対話を増やして、構造で解決していくことは常に意識しています。
SmartHRは「経営を変える会社」になれる
——今後のSmartHRの可能性や、ご自身が実現したいことについて教えてください。
すごく大きな話をすると、SmartHRはこれから「経営を変える会社」になれると思っています。
今のSmartHRは、世の中から見るとまだ「人事労務の会社」あるいは「タレントマネジメントの会社」という認識が強いです。でも、実際には給与や勤怠、情報システムなど、プロダクトの幅はかなり広がってきています。その先にあるのは、単なる業務効率化ではなく、企業の経営そのものをより良くしていくことだと思っています。
“誰もがその人らしく働ける組織づくり”や“人的資本経営の実現”といったテーマは、本来、非常に経営に近い話です。そうしたときに、「経営を変えたい」「組織を良くしたい」と思った企業が頼れる相手として、SmartHRが認識されるようになる。そんな世界観を、私は実現したいと思っています。
特にミディアム・エンタープライズのお客さまには、医療、飲食、小売、製造など、ノンデスクワーカーの方々が多い業界が数多く含まれています。こうした領域は、まだまだDXやSaaSの浸透余地が大きい。だからこそ、私たちの営業や提案の力で入り込み、プロダクトを導入していただくことで、現場の方がより働きやすくなるとか、自分の仕事により誇りを持てるようになるといった変化まで生み出せたらすごく意味があると思っています。
その変化が広がっていけば、日本全体の働き方や生産性の変化にもつながっていくはずです。そこに挑戦できるのが、今のSmartHRの面白さだと思います。
加えて、AIの活用もまだまだ大きな伸びしろがあると感じています。
今も、商談内容の分析や情報検索性の向上など、業務効率化の文脈ではすでに活用が進んでいます。ただ、本当に面白いのはその先だと思っています。
たとえば、お客さまごとにどんな提案をすべきかを考えるとき、今はまだ企業を調べたり、提案ストーリーを組み立てたりする部分をかなり人が担っています。でも将来的には、どのお客さまにどうアプローチするか、どんな資料や提案動画を用意するかといったところまで、AIをもっと活用できる余地がある。そうなれば、営業という仕事の進め方そのものが大きく変わっていくと思います。
SmartHRとしても、自社でそうした仕組みやサービスを開発しながら、よりスピーディーにお客さまに価値を届けていける可能性がある。そこも、今後すごく楽しみにしているポイントですね。

——最後に、SmartHRに関心を持っている方へメッセージをお願いします。
2030年に売上1,000億円という目標に向けて、これから組織はさらに大きくなり、事業ももっと多様化していきます。M&Aも含めてグループの広がりが出てくるでしょうし、それに伴って経営に近いポジションや役割も確実に増えていくはずです。
つまり、ポジションは詰まっているどころか全然足りていません。もちろん内部から優秀な人材を登用していきたいという思いはありますが、それだけでは間に合わないくらい、今は求められているスピードが速い。だからこそ、外から来ていただける方にも大きなチャンスがあると思っています。
それに、取締役やCxO、VP、ダイレクターを含めたみなさんが本当に合理的でロジカルで、信頼して任せてもらえる感覚がある。所有と経営がきちんと分かれていて、「オーナーが言うからそうする」という意思決定ではなく、事業にとって合理的かどうかで判断できる。これは、実際に働くうえですごく大きいと思っていますし、事業にしっかり向き合いたい人にとっては、とてもやりやすい環境です。
変化のど真ん中で、経営に関わりながら事業を動かしていきたい。そんな方にとっては、今のSmartHRはすごく面白い環境だと思います。
編集・写真/@okie





