
タレントマネジメント事業本部 事業本部長
(VP of Talent Management Business)
松栄 友希(写真左):デザイナー、マーケターなど多様な職種を経てProduct Managerに。「転職ドラフト」など様々なプロダクトの立ち上げに加え、会社立ち上げも経験。STORES株式会社を経て、2022年12月に株式会社SmartHR入社、タレントマネジメント領域を担当。2026年より現職。日本CPO協会理事。
ビシネス企画統括本部 統括本部長
(VP of Business Planning)
有本 由香(写真右):大学卒業後、インテリジェンス(現パーソルキャリア)に入社。営業職を経て障害者雇用支援事業の立ち上げに参画し、マネジメントや新規サービスの開発を推進。統合後のパーソルダイバースでは事業責任者として、人材紹介、コンサルティング、就労移行支援の各事業を統括。事業戦略やPL管理、人材育成まで幅広く経験する。2023年4月にSmartHRへ企画職として入社し、2026年より現職。「戦略を固め、実行力を上げる」VPとして担う責任と変革の推進力
—まず、お二人が新しい事業組織のリーダーとして、現在どのような役割を担い、何を推進されているのかを教えてください。
松栄:タレントマネジメント事業部全体の事業責任を負っています。短期的な組織作りや数字の達成はもちろんですが、2030年に向けた中長期的な戦略の策定と推進も担っています。
事業部自体が今年の1月に発足したばかりなので、組織的には「Change Management」の側面が強いですね。従来のやり方から、事業部としての新しい進め方へと変革していく。事業数字を達成する戦略作りと組織変革を推進しているところです。
有本:私はビジネス組織の中にある「ビジネス企画統括本部」を担当しています。SmartHRの現在のビジネス組織は、エンタープライズやグロースなど顧客規模に応じた4つの事業本部とパートナービジネス事業を含めた5つの事業本部で構成されています。私は、その企画機能全般を統括する役割を担っています。
具体的には3つの軸で横断的に組織を見ています。1つ目は、各事業本部の予算策定や売上拡大戦略を担う「ストラテジー」部門。2つ目は、横断的な「オペレーション」の設計・構築。そして3つ目が、人材育成を担う「イネーブルメント」です。
—お二人が、VPという立場として組織のパフォーマンスを向上させるために、今注力されていることは何でしょうか。
松栄:戦略を固めることと、それに対する実行力を上げることです。目指すべき方向性を明確に定め、高い強度で実行できる組織を作ることが、今の私の最も重要な役割だと考えています。
有本:私は、新設された事業領域と既存の顧客規模(Tier)ごとの組織の「つなぎ込み」の強化に最も注力しています。
事業領域という横断的な組織ができたことで、領域ごとにどのTierをどう伸ばしていくか、という掛け合わせの議論が始まっています。このつなぎ込みを強化することで、各事業本部が、単年の予算計画だけでなくしっかりと中期計画を描ける状態にアップデートしていきたいと考えています。
ほかにも、中途採用の増加に伴う人材の早期戦力化や、AIの活用によるビジネスの生産性向上も、注力領域として推進しています。
バラバラだったベクトルを1つに。マトリクス組織への移行がもたらした「解像度の向上」
—組織が事業部とTierごとのマトリクス組織に変わったことで、コミュニケーションにはどのような変化がありましたか?
松栄:去年までは、簡単に言うと「タレントマネジメント」という観点から各職能に対し方向性を統一する人がいなかったんですね。ビジネスとプロダクトの距離も遠く、プロダクト、セールス、カスタマーサクセスといった職能に応じ、以前はそれぞれ別の上司のもとでバラバラの方向に動いていて、お互いのことを深く知りにくい状態だったんです。私は元々プロダクトマネージャー(PM)だったので、ビジネスサイドがどのようなロジックで動いているのかを知る機会もあまりありませんでした。
しかし事業部制×マトリクス組織になったことで、タレントマネジメント事業のプロダクトに関わる最終意思決定者が統一され、同じメッセージが各職能に伝わるようになりました。これにより、意思決定のプロセスが非常にスムーズになりましたね。
有本:事業本部側の目線から見ても、大きな変化がありました。以前は、あるトピックや戦略について、同じ事業領域なのにそれぞれの職能から返ってくる答えが違うこともありました。部分最適が効きすぎていたんですよね。
また、これまではプロダクト戦略が見えづらかったので、事業としての中長期的な方向性が掴めず、結局、今見えているプロダクトの情報をベースに予算計画を立てざるを得ない状況でした。そのため、単年度以上の予算を描きにくかったんです。事業領域ができたことによって、それぞれのプロダクト戦略をブレイクダウンして、たとえば「2028年にはこの規模の顧客にも売れるようになる」といった詳細な未来が見通せるようになり、事業計画に繋ぎ合わせられるようになってきています。

—解像度が上がり、連携がしやすくなったのですね。
松栄:はい。特にプロダクト開発において、顧客解像度は格段に上がりました。以前は、お客さまへのヒアリングは既存顧客が中心になるため、どうしてもカスタマーサクセスからの声に偏りがちでした。しかし、事業部として全体を見るようになり、「セールス段階のお客さまの声をもっと聞かなければいけない」という気づきが得られたのは大きかったです。
フィールドセールスとカスタマーサクセスでは見えている世界が全く違う。Tierと職種を掛け合わせた数だけ異なる世界がある。その解像度が上がったことで、プロダクトとしての伸びしろが明確になりました。
有本:コミュニケーションラインが増えましたよね。若干カオスなほどに(笑)。ミーティングの仕組み化など、それぞれのセールスが要望を伝えるための座組がたくさんできたので、現場で吸い上げたお客さまの声がダイレクトに届くようになったと思います。
—増えていくコミュニケーションラインにおいて、意識統一はどのように図っているのでしょうか?
松栄:見てきた世界が異なるメンバーたちの視座を合わせ、1つのチームという意識を持ってもらうことが非常に重要です。そのために、タレントマネジメント事業部内での全体会議を月に一度開催し、事業の進捗や今後の方向性を共有しています。
また、「そぼぎ会」と呼んでいるのですが、各職能が考えていることを共有したり、メンバーからのあらゆる素朴な疑問に答えたりする会を3週に1度実施しています。こうした対話を通じて、バラバラだったベクトルの向きを1つに揃えようとしています。

「トレードオフの引き受け方」と、意思決定の軸
—現在の組織におけるVPとして、様々な意思決定をされることも多いと思います。変化の激しい中での、意思決定の軸となるものはありますか?
有本:SmartHRは基本的にロジカルで合理的な判断をする組織ですが、その中でも悩んだ際に意識していることは2つあります。1つは、「お客さまへの提供価値が薄まっていないか」を最優先に考えること。もう1つは、過去の経緯にとらわれず、常にフラットな視点で「今、何が正しいのか」を判断することです。
「これまでこうやってきたから」という思考は捨て、現状を正しく捉える。その上で、意思決定による組織への影響も慎重に考えます。無理な変革によって組織が壊れてしまっては元も子もありませんし、事業成長にもつながりませんから。
松栄:私は、意思決定に対する「How」を適切に持つことが重要だと考えています。いわゆる「One-Way Door」と「Two-Way Door」の区別です。一度決めたら後戻りできない重大な決定は慎重に検証を重ねるべきですが、後戻りできる決定はスピードを優先する方が良い場面が多いです。どんな状況でも即断即決することが、必ずしも良い意思決定とは限りません。あえて寝かせて置いたほうがいい場合もあります。
ただ、何よりも、目線をどこに置くかが大切だと思っています。VPとして自分の担当領域は持っていますが、常に「会社視点で意思決定する」という視点を基本に置いています。

— 一方で、全社最適の視点と、ご自身の担当領域での成果を出すという部門最適の視点。この2つのバランスを取るのは難しいのではないでしょうか。
松栄:もちろん、自分の領域で必要な成果を上げないと結果的に会社として上手く成り立たなくなるので、バランスを取らなければなりません。
そのために、自分が動かせる「レバー」がどれくらいあるかを常に把握しています。全社の情報も入手しながら、自分の領域と他の領域を比較して「必須だけどあちらの変数を動かすほうが難しいな」と判断すれば、そちらを優先することもあります。もちろん、折れたら自分の領域の事業が立ち行かなくなる、というラインを見極めながらですが。
有本:全社最適と部門最適のバランスの難しさは、私も日々感じています。特に人材の配置や連携においては、部門の利益と事業部としての利益を考えた際に、優先順位を付けるのは難しいシーンもあります。
頭では全社最適が正しいと分かっていても、意思決定には自部門の利益とバランスを取らなければならず、意思決定が困難になる。そういったときは、サードパーティ(第三者)の介入や、トップダウンによる決断も必要になってきますね。
「間違ったらごめんと言える素直さ」 役職が上がるほど必要になる資質
—組織のメンバーに納得して動いてもらうために意識していることはありますか?
松栄:人を動かす上で重要なのは、「オープンであること」と「人間として向き合うこと」だと考えています。
心情として、ただ「目標達成が困難になるから」「トップダウンで決まったから」と伝えるだけでは誰も納得しません。だからこそ、決定の背景や経緯を包み隠さずオープンに共有し、当事者にとっての希望を提示できるかが重要になります。そのためには、日頃から誰よりも情報を集め、考え、行動し、信頼関係を築いておく必要があります。
不測の事態があったとき、人を巻き込みそれを打破できる能力というのは、役職が上がれば上がるほど必要となるものだと思います。

—変化の激しい環境において、信頼関係を築き、組織文化を浸透させるために、他にどのようなことを重視していますか?
松栄:時には、意思決定を間違うこともあります。間違ったときには、「私が間違っていた、ごめん」と素直に謝罪できること。そして、メンバーからのどんな質問にも逃げずに答えることが大切だと思います。
先ほど話した「そぼぎ会」は、質問を事前に集めず、その場で出たものに即興で答えていきます。これは「誰に対しても真摯に向き合う」というメッセージでもあります。結局最後は「この人を信用できるか」という、人間同士の信頼関係に尽きるのではないでしょうか。
有本:組織作りにおいては、マネージャーとの関係性も重要だと思います。信頼するマネージャーたちに対して、自分がVPとして得た情報を伝えられる範囲でオープンに共有し、「私はこう思った」という自分の考えもセットで伝えるようにしています。
考えを一緒に伝えることで、会社としての大切なポイントも伝わりますし、マネージャーからも「いや、こうじゃないですか?」といった本音の意見が出てくる。その意見の尊重がとても大事だと思っています。VPという立場になると、どうしてもメンバーからは言いにくいことも増えがちです。だからこそ、間に立ってもらうマネージャー層とお互いに本音で語り合える関係性を築いておくことが、組織をみる上で非常に重要だと感じています。
—有本さんが考える「信頼できるマネージャー」の資質とは何でしょうか?
有本:3つあります。1つ目は「目的思考であること」。事業を良い方向に向かわせるために何が必要か、という視点を持っていること。2つ目は「視野が狭くないこと」。そして3つ目は「素直であること」です。自分が間違っていたと気づいたときに、それを受け入れ、自分のバイアスを取り除ける素直さ。松栄さんの話にも通じますが、この素直さは、役職が上がれば上がるほど重要になる資質だと思います。

事業貢献へのコミットメントと、その先に見据える未来
—最後に、お二人が今後、特に力を入れていきたいことを教えてください。
松栄:今日の話の流れとは少し変わりますが、私がやりたいことは「日本をより良くしたい」という、ただそれだけです。価値のあるサービスを作り、お客さまへ提供する。日本の組織が良くなることに対してどれだけ貢献できるか。組織作りや意思決定はそのための手段でしかありません。最終的には成果で評価されるべきだと考えているので、そこにコミットし、きちんと成果を出していくことにこれからも集中したいです。
有本:SmartHRに入社したときの私の関心は、「自分がいかに事業貢献に影響できるか」でした。事業貢献できるのであればポジションや役職、部署や職種にはこだわらない、ということは、今もずっと自分の軸になっています。今後も引き続き「いかに事業貢献できるか」という意識で、目の前のことに注力していきたいと思っています。
SmartHRは、この規模になってもカルチャーを維持し、さらに高い成長を目指している、非常に恵まれた環境だと思っています。難易度は高いですが、アドレナリンを出し続けられるこの環境で、飽きずに事業貢献を続けていけたら最高ですね。

取材・文・写真/okie





