2017年、SmartHRに4人目のセールスとして入社。入社後は規模を問わずセールスに関わる全業務を経験し、チームビルディングに貢献。一貫してフィールドセールスとして顧客への提案・契約に奔走し、現在は2,000名以上の規模を持つエンタープライズ企業専任として、大手企業を中心とした営業・課題解決を担当している。
「大企業には使ってもらえないと思っていた」。その見立てを変えた、現場の課題
ー SmartHRがエンタープライズ企業にも向き合い始めたのは、いつ頃からだったのでしょうか。
エンタープライズ企業へのご支援の機会が増えはじめたのは、入社から1年ほどが経った2018年頃だったと思います。
当時SmartHRの主な機能は5つほどでした。入社手続き、年末調整、給与明細、電子申請、身上変更。もちろん関連する細かな機能はありましたが、今のSmartHRと比べると、提供できる価値の幅はまだ限られていました。今振り返ると、その限られた武器でどう価値を届けるかを考えていた時期でしたね。
正直なところ、当時は「エンタープライズ企業には、まだ使ってもらえない」と思っていたんです。いわゆる大企業にはすでに長年運用されてきた人事・労務システムがあるし、従業員数も多い。スタートアップのクラウドサービスが入り込む余地は、そこまで大きくないのではないかと。
でも実際に商談をしていくと、エンタープライズ企業の方々もSmartHRに強い関心を持ってくださることがわかりました。既存のシステムはあるものの、現場では紙の業務が残っていたり、システムがあっても十分に活用しきれていなかったりする。そこに、私たちが提供できる価値があるのではないかと感じ始めたのが、2018年頃でした。

ー 既存のシステムがあるからこそ、入り込むのは難しいという見立てだったのですね。
そうですね。システム自体はあるんです。ただ、お客さまからすると「あるけれど、使いづらい」という声がありました。長年使われてきたシステムほど、改修や運用が積み重なっていきます。そうすると、なぜこの設計になっているのか、どこを変えると何に影響が出るのかが見えづらくなる。いわゆるブラックボックス化が起きやすくなります。
一方で、企業規模が大きいほど、システムを変える意思決定は簡単ではありません。多くの関係者が関わりますし、既存業務との兼ね合いもある。だからこそ、使いづらさを感じながらも「今のままでいくしかない」となっているケースもありました。
また、当時はクラウドサービスに対する見方も今とは違いました。10年ほど前は、「クラウドです」と言った時点で検討が難しくなることもありました。人事・労務データは社内のサーバーで管理すべきだ、という考え方が強かったからです。
でも今は、むしろ「クラウドであること」が前提になりつつあります。クラウドだからこそ継続的に改善され、最新の状態で使い続けられるという私たちの価値も伝わりやすくなってきました。
エンタープライズ企業が求める「当たり前基準」
ー エンタープライズ企業での導入が増えたことで、SmartHR側にも変化はありましたか。
大きく変わったのは、サービスとしての「当たり前基準」を上げていったことです。
エンタープライズ企業では、セキュリティ、権限設計、承認プロセスなどにおいて、求められる水準が大きく変わります。従業員数が多く、組織も複雑なので、幅広い部署や役職の方がシステムを使います。そのなかでは、見えてはいけない情報をきちんと制御できることが必要です。
たとえば部署や役職ごとに閲覧できる情報を細かく分けること。複数の承認者を経由する業務フローに対応すること。お客さまの内部ルールに照らしても問題ないセキュリティ水準であること。そうした一つひとつが満たされなければ、現場では使えません。
エンタープライズ企業にも使っていただけるサービスにするために、SmartHRはこうした「当たり前」の基準を少しずつ上げてきました。
ただエンタープライズ企業が求める機能を継ぎ足して複雑にするだけでは、SmartHRらしさは失われてしまいます。複雑な業務に耐えられる水準を持ちながら、従業員や担当者、業務に関わる誰にとっても使いやすい。その両立が、SmartHRがエンタープライズ市場で選ばれるために大事なことだと感じています。
契約をゴールにしない。複雑な合意形成に向き合うセールスの役割
ー エンタープライズ企業特有の人事・労務DXの壁は、どのようなところにありますか。
やはり「ステークホルダー(関係者)の多さ」ですね。大企業では、人事・労務の現場担当者だけでも10名を超え、経営陣まで含めると20〜30名の同意を得なければならないこともめずらしくありません。同じ会社のメンバーでも、それぞれ見ているポイントが違います。
たとえば、現場では「本当に業務が楽になるのか」「従業員が迷わず使えるのか」が重要視されることが多い一方で、経営層はもう少し違う視点で見ています。集めたデータをどう活用できるのか、これまでできなかった事実に基づく意思決定ができるようになるのかといったデータ活用や経営判断へのつながりを重視されることが多いです。
現場、部長、執行役員や経営層。それぞれの立場で見ているものが違うからこそ、反対意見がある場合には、可能な限り対話を重ねる必要があります。どこかのレイヤーで納得感がないまま進めてしまうと、導入後に問題が出てしまうからです。立場によって求める価値が違う。そこに向き合うのが、エンタープライズセールスの難しさでもあり、面白さでもあります。

ー 現場から反対意見が出ることもあるのでしょうか。
あります。特に業務システムの導入は、現場の業務プロセスを大きく変えることがあります。これまで自分たちがやってきた業務を変えるわけですから、不安や反発が出るのは自然なことです。
ただ、反対意見を持っている方も、必ずしも「今のままがいい」と思っているわけではありません。今の業務に課題を感じているけれど、変えた後に本当にうまくいくのかが見えない。あるいは、自分たちの業務がどう変わるのかをきちんと理解したい。そういうケースも多いです。
だからこそ、商談の段階から関係者の方々に打ち合わせへ入っていただき、対話することを大切にしています。ただその場にいるだけではなく、きちんと議論に参加していただく。意見を聞きながら、「SmartHRを使うと、この業務はこう変わります」「一方で、この課題は残るかもしれません」「であれば、そもそもこの業務自体を見直しませんか」と話していく。
契約だけをゴールにしてしまうと、導入後に必ず問題が起きます。現場の方々が納得しないまま進めると、「自分たちは合意していないのに、なぜ進んでいるのか」となってしまう。そうならないように、契約後の活用や浸透まで見据えて、商談の段階から合意形成を進めることが大事だと感じています。
契約が取れた瞬間よりも、その後にきちんと使われる状態をつくれるかが重要です。そこまで見据えないと、本当の意味でお客さまの課題解決にはならないと思っています。
機能提案から、課題解決の提案へ
ー SmartHRの機能や提供価値が広がるなかで、セールスとしての向き合い方も変わってきましたか。
根本はあまり変わっていないと思います。お客さまが価値を感じて、「使いたい」と思ってくださる状態をつくることが大切だという考えは、入社当時から変わっていません。
ただ、提案の仕方は大きく変わりました。
機能が5つほどしかなかった入社当時は、言葉を選ばずに言うと、限られた武器だけで戦っていた感覚です。もちろん、それぞれの機能には価値がありましたが、提案できる価値の範囲は今よりもずっと限られていました。
今は、SmartHRが提供できる価値の幅が大きく広がっています。だからこそ、「この機能を使ってください」「この業務を効率化できます」という機能提案だけではなく、お客さまの組織が目指している姿に対して、どのような課題を解決できるのかを提案できるようになってきました。
たとえば、ある業務に人の手が多く入り、ミスや工数が発生しているとします。それが全従業員規模で起きているなら、会社全体として大きな機会損失になっている可能性があります。そこで、SmartHRのどの機能をどう組み合わせれば、その課題を解決できるのか。さらに将来的にどこまで活用を広げられるのか。そうした拡張性まで含めて話せるようになりました。
エンタープライズ企業では、機能の説明だけではなかなか響きません。導入することで会社がどう変わるのか。経営や現場にどのような価値があるのか。そこまで伝えられないと、次の議論には進めないと感じています。

ー お客さまとの会話で、最近増えているキーワードはありますか。
「Fit to Standard」という言葉はよく出てくるようになりました。
以前は、システムを自社の業務に合わせてフルカスタマイズする考え方が多くありました。ただ、個別開発を重ねると、システムがブラックボックス化していきます。業務を引き継いだ人が、なぜこの設計になっているのかわからない。そうしたシステム負債が積み上がっていくことがあります。
その反省から、今は「システムを業務に合わせ続ける」のではなく、標準機能を前提に業務自体を見直す流れが出てきています。SmartHRの商談でも、そうした会話が増えてきました。
もちろん、すべての業務を一律に標準化すればよいわけではありません。ただ、これまで継ぎ足しで続いてきた業務を見直し、本当に必要なプロセスに整理していく。そのきっかけとして、SmartHRを検討いただく場面は増えていると感じます。
広がる提供価値。エンタープライズ市場におけるSmartHRの現在地
ー エンタープライズ市場におけるSmartHRの現在地を、どのように捉えていますか。
まだ道半ばではありますが、以前とは明らかに見られ方が変わってきていると感じます。
かつては、入社手続きや年末調整など、特定の労務業務を効率化するサービスとして見られることが多かったと思います。もちろん、それは今もSmartHRの大切な価値です。
今は、人事・労務の一部業務だけでなく、従業員データをどう集め、どう活用し、会社全体の意思決定につなげていくのかという文脈でご相談いただくことが増えています。人事部門だけではなく、経営層や情報システム部門、DX部門とお話しする機会も増えました。
SmartHRとしても、人事給与基幹システムへの進化を掲げています。価値を提供できる領域が広がっているからこそ、お客さまに提案できる未来図も大きくなってきました。
ー セールスとして、このフェーズの面白さはどこにありますか。
営業の仕方は常にアップデートし続けなければいけません。
プロダクトも市場も変化し続けているなかで、半年前まで通用していた提案が、今のお客さまにはもう合わないこともあります。お客さまの課題も変わりますし、SmartHRが提供できる価値も変わる。だから、私たちセールスも変わり続けなければいけない。
それは大変である一方で、とても面白いところでもあります。今は、お客さまが目指す姿に対して、SmartHRとしてどのような道筋を描けるのかを考えられる。提案の幅も、責任も大きくなっていると感じます。

エンタープライズ企業には、数千人、数万人規模の複雑な業務や組織構造があります。だからこそ、SmartHRがそこで日常的に使われるようになることは、より多くの働く人の業務体験を変えていくことでもあります。
まだSmartHRを知らない企業や、こうしたサービスを導入したことがない企業も多く、届けられる余地は大きいです。企業だけでなく、そこで働く人たちに価値を感じていただいてこそ、使い続けてもらえるサービスになる。少しでも「SmartHRがあって楽になった」と思ってくださる方を、一人でも増やしていきたいですね。

編集/@fujiryo
写真/@okie





