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なぜSmartHRは「従業員ポータル」に取り組むのか? 人事労務の新たな業務体験への挑戦

SmartHRは2026年より、従業員との接点を担うESP(Employee Service Platform)事業本部を新設し、「従業員ポータル」領域を一つの事業として強化しています。従業員ポータルとは、会社からの情報や必要な手続き、問い合わせの回答に迷わずアクセスできる入口となるものです。

人事労務の手続きがデジタル化されても、従業員への連絡やリマインド、問い合わせ対応など、人事部門と従業員のあいだに残る業務は少なくありません。特にPCやメールアドレスを持たない従業員が多い職場では、情報が届かない、本人に直接連絡できないといった課題も起こりやすくなります。

SmartHRはこうした“現場の詰まり”を解消し、会社と従業員の接点をどのように変えようとしているのか。人事労務ソフトから、すべての従業員が日常的に触れるプロダクトへと進化しつつある今、その挑戦の現在地をプロダクト責任者のPM武政さん、ビジネス責任者のPMM島田さんに聞きました。

武政 成彦 (写真右)
ESP(Employee Service Platform)事業本部 ESPプロダクト本部 本部長
複数会社で商品企画、事業開発、プロダクトマネジメントに従事。AIスタートアップでCPOを努めた後、2023年6月にSmartHRに入社。現在はESP事業本部のプロダクト責任者として、プロダクト開発を統括。

島田 悠司 (写真左)
ESP(Employee Service Platform)事業本部 ESPビジネス本部 部長
教育・福祉系企業にて障害児教育やプログラミング教育事業の立ち上げを経て、日本マイクロソフトに入社。教育政策・事業開発担当マネージャーとして日本全国の学校・教育機関へのICTツールの導入と活用による教育変革に従事。SmartHRに入社後は、プロダクトマーケティングマネージャーとして製品企画および製品マーケティングを担当。現在はESP事業本部のビジネス責任者として、従業員ポータル領域の事業成長を推進。

従来の人事労務ソフトでは解決できない「名もなき業務」

— まず、SmartHRが従業員ポータル領域を強化している背景を教えてください。

島田:SmartHRはこれまで、申請手続きや年末調整などの労務領域から、人事評価やスキル管理などのタレントマネジメント領域まで、さまざまなプロダクトを提供してきました。そして、2023年ごろからは、「従業員一人ひとりとの接点」にスポットを当てた従業員ポータル領域の強化に取り組んでいます。

背景にあるのは、人事部門と従業員の双方に負担を生む「名もなき業務」です。

申請手続きや年末調整といった「業務」そのものはデジタル化され、効率化できた部分も多くあります。一方で、人事部門と従業員とのあいだには、まだまだ非効率な部分が多く存在していると考えています。

例えば年末調整は、SmartHR上でアンケートに答えることで、紙で書いていたころよりも簡単に提出できるようになりました。しかしその裏側では、提出内容に誤りがあった場合の差し戻しや、従業員からの問い合わせ対応、未提出者へのリマインドといった作業は残り続けています。従業員から同じような質問が何度も届いたり、期限に間に合わせるため個別に督促したりするだけでも、かなりの労力がかかっています。

弊社で行ったアンケート調査によると、労務担当者が受ける問い合わせの88%は、規定やマニュアルを見れば解決できる内容であることが分かっています。

— 手続きそのものがデジタル化されても、その周辺にある連絡や問い合わせ対応は残り続けているのですね。

島田:その通りです。そうした課題に対して、SmartHRは、会社から従業員全員にアナウンスできるお知らせ機能、年末調整など手続きに関する個別の連絡をチャット形式で送れるメッセージ機能、社内の各種規定やマニュアルをもとにAIが問い合わせに回答してくれるAIアシスタント機能などをリリースしてきました。

これらの機能を通じ、従業員が必要な情報や手続きに迷わずアクセスできる状態をつくる。それが、私たちが「従業員ポータル」と呼んでいる領域です。

従業員側にも、同じように負担はあります。社内規定やマニュアルに情報があっても、そもそも届いていなかったり、どこにあるのか見つけられなかったり、読んでも理解が難しかったりする。そうした小さな詰まりが積み重なることで、従業員は必要な情報を探し回り、人事部門にも同じような問い合わせが繰り返し届きます。

今までの人事労務ソフトでは解決できていなかった、こうした会社と従業員のあいだの非効率をなくし、すべての従業員が本来やるべき業務に集中できるようにしていくことを目指しています。

PCやメールアドレスを持たない従業員にも届く、新たな人事労務の業務体験

— 「名もなき業務」の表れやすさは、業種・職種によっても違うのでしょうか?

島田:はい、特に表れやすいのが、「ノンデスクワーカー」の方が多い業種です。

IT企業などデスクワークが仕事の中心となる業種では、業務用のPCが1人1台貸与されて、従業員全員がメールアドレスやチャットのアカウントを持っていることが多いです。一方で、小売店や飲食店、工場、配送や倉庫業といった業種では、普段の業務でPCを使わないことの方が多く、「店舗に共有PCが1台だけ」「現場の管理者だけが業務用ツールのアカウントを持っている」といった状況も珍しくありません。

このような現場では、「本社から各店舗の店長に通達が届き、店長から朝礼でメンバーに伝えたり、店舗の掲示板に貼ったりする」ような、アナログな伝達方法に頼らざるを得ない状況があります。

— そのような状況に対し、SmartHRはどのような変化を生み出しているのですか。

島田:人事部門から従業員本人へ直接情報が届けられるようになることで、情報伝達のリードタイムを大きく短縮できます。

運輸業のお客様では、人事から上長へ、上長から従業員本人へという「伝言ゲーム」の連絡に、従来は最長1週間ほどかかっていました。それが、メッセージ機能の導入後は、早ければ当日中に返事を受け取れるようになりました。

人事から上長へ、上長から本人へ、本人から上長へ、そしてまた人事へ戻る。こうした伝言ゲームには、想像以上に大きな時間と労力がかかります。SmartHR上で従業員本人と直接つながれることは、単に連絡を早くするだけでなく、現場の行動を早くすることにもつながります。

― 「新たな業務体験」という意味では、AIアシスタント機能も大きな役割を果たしそうですね。こちらはどのような変化を生み出していますか。

島田:飲食業のお客様の事例では、店舗は休日や夜間も営業している一方、人事部門は平日の日中が勤務時間であるため、「営業終了後や土日に店長が事務作業をしていて、不明点が出てきても、人事に問い合わせできない」という課題がありました。これに対し、AIアシスタント機能を活用することで、曜日や時間帯を問わずいつでも聞ける安心感を現場の方に実感いただけています。

武政:AIアシスタント機能が一次窓口になることで、人事労務部門側の負担も軽減できていると思います。

AIアシスタント機能では、事前にその会社の規定やマニュアルを読み込んだうえでAIが回答します。一般的な回答ではなく、その会社の実際の手続きや流れに沿った回答ができるため、たとえば「引っ越しをしたけれど、どんな手続きが必要なのか」といった質問にも一次回答ができます。わからないことがあったとき、まずどこに聞けばいいのか迷わずに済むこと自体が、従業員にとって大きな価値になります。

「SmartHRで、本当に従業員は楽になったのか」という問いに向き合う

― 人事労務ソフトから従業員ポータルへ。従業員の方々との「接点」が大きく変化してきているのですね。

武政:はい。近年、SmartHRは「人事労務の業務を効率化するツール」から「従業員の方々が日常的に触るツール」へと変化してきました。その象徴となるのが、スマートフォン向けアプリです。

SmartHRのスマホアプリは、提供開始から約2年半で200万インストールを突破しています。この数字は、従業員の方とSmartHRとの関わり方が変わってきていることを表しています。

武政:かつて従業員の方にとって、SmartHRは「年に数回、必要に迫られたときにだけ触る」ツールでした。年末調整などが分かりやすいですが、「毎年、年末に一度だけ、人事から入力するよう通達が来たから触る」というケースも珍しくなかったのです。

それが、メッセージ機能やお知らせ機能により「自分宛に届いたお知らせを確認する」ようになったことで、SmartHRに触れる頻度はグッと上がりました。2025年には勤怠管理の機能もリリースされ、出退勤の打刻などを通じて、日常的にSmartHRに触れる場面が生まれています。

従業員の方々が日常的に触れる場面が増えているからこそ、人事部門だけでなく、従業員の方々にとってより使いやすく便利なプロダクトへと進化しなければならない。それが、SmartHRが従業員ポータルの領域に取り組んでいる最大の理由です。

島田:スマホアプリの存在は本当に大きいです。

特にノンデスクワーカーの方々は、お客様や商品、設備と向き合いながら働いています。相対的に、PCと向き合う時間が少なくなるため、これまではデジタル化の恩恵にあずかれていない場面が多かったのです。

それが、SmartHRのスマホアプリを使うことで、現場でもスマートフォンをサッと取り出して、 連絡をいつでも確認でき、分からないことはAIアシスタントに聞けばすぐに回答を得られるようになります。まるで従業員一人ひとりのポケットの中に人事担当者がいるような、そんな価値をスマホアプリを通じて届けられているのではないかと感じています。

― SmartHRが従業員との接点を持つことは、プロダクトとしてどのような意味を持つのでしょうか。

武政:入社手続きでSmartHRを使っていただく。すると、雇用や勤務の形態を問わず、すべての従業員の方がSmartHRのアカウントを持つことになります。そして、日々の業務の中でSmartHRを使っていただくことで、さまざまな人事データがSmartHRに蓄積されていきます。

従業員との接点が増えれば、SmartHR上に集まるデータの量と鮮度も高まり、そのデータをもとに人事労務だけでなく、タレントマネジメントへも価値を広げられます。使っていただく接点が増えるほど、SmartHRの価値も広がっていく。そこに、従業員ポータル領域の大きな可能性があると考えています。

島田:もともとSmartHRは、人事部門や管理部門の皆さんにとって便利な機能が多かったと思います。その一方で、新しくデジタルツールを取り入れたことで、「従来よりも仕事が増えた」「難しくなった」と感じる方もいらっしゃいます。

私たちは「SmartHRによって、従業員一人ひとりが本当に楽になったと言えるのだろうか?」という問いと、ずっと向き合い続けてきました。

SmartHRは、正社員だけでなく、パート・アルバイトの方も含めて利用いただく機会の多いプロダクトです。だからこそ、SmartHRは人事労務ソフトの枠を超えて、バックオフィス全体で活用でき、すべての従業員が楽になるプロダクトとなる必要があると考えています。その責務を担っているのが、私と武政が取り組んでいる従業員ポータルの領域だと思っています。

最大公約数の先に、「一人ひとりの顔が見える」というやりがい

― お二人は、従業員ポータルの領域にどのようなやりがいを感じていますか。

島田:私は前職で、外資系のいわゆる「ビッグテック企業」に勤務していました。

当時は、世界中のあらゆる企業で使われているような、非常に大きなプロダクトを扱っていました。しかし、SmartHRへ転職してみると、「そのデバイスやアカウントを持たずに働いている人が、こんなにもたくさんいるのか」と驚いたと同時に、むしろ「SmartHRだけは全従業員がアカウントを持っているお客様が数多くいる」という事実に大きな可能性を感じました。

言い換えると、「世界的なビッグテックであっても、働く人の一人ひとりに根差したプロダクトになりきれていない」ということに気付いたのです。

SmartHRが取り組んでいる領域には、一人ひとりの働きやすさを追求していく余地がまだまだたくさんあります。そこにやりがいがあり、そして、ぜひそれをやり遂げたいという気持ちで日々取り組んでいます。

武政:SmartHRを利用している方は、高校生のアルバイトの方から、定年後のシニア雇用で働いている方まで、ひとくちに「従業員」と言ってもとても幅広い方々がいらっしゃいます。何か1つの機能をとってみても、それだけ幅広い方々が、誰一人取り残されず便利に使っていただけるように開発していかなければなりません。

SaaSのプロダクトである以上、最大公約数のユーザーを意識することは必要です。しかし、それと同時に、「具体的に顔が思い浮かぶ一人ひとり」にとっても、使いやすいものをつくりたい。そこに、SmartHRというプロダクトの面白さがあると、私は考えています。

編集・写真/fujiryo(広報)

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