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2025.08.12

1on1の功罪について

こんにちは。SmartHR CEOの芹澤(@masato_serizawa)です。

みなさん、1on1やってますか? SmartHR社でも僕が入社した2016年頃から1on1をやっています。
余談ですが、当時はマンションの一室がオフィスだったので密閉された会議室がなく、ベランダや公園で1on1をしていたのを覚えています。あの夏に公園で1on1をして蚊に刺された痒みを僕は忘れることはないでしょう。

1on1での対話を通して解決できた課題や生み出されたイノベーションは数知れず。その効果に疑いの余地はありません。一方で1on1にも「質」があり、中にはあまり意味をなしていない、形式的に実施されている1on1もあると思います。
もしかしたら1on1が浸透している弊社でも、本当に質の高い1on1ができている人はあまりいないのかもしれません。

そんな形骸化してしまいがちな1on1について、その功罪や向き合い方を考えてみたいと思います。

功(成功事例)

僕がマネジメントという役割を拝命した頃に読んで感銘を受け、いまもたまに読み返す本に『HIGH OUTPUT MANAGEMENT』があります。これはインテル株式会社の第3代CEOであるアンディ・グローブ氏が書いた本で、組織の成果を最大化するためのマネジメントの心得や、エンジニアのような定性評価職種のマネジメントにおける勘所が書かれています。

この本の中で、マネジメントの主業務は「情報収集、情報提供、意思決定 、ナッジング(突っつき)」の4つであると定義されており、1on1はそれらを遂行する上での最重要ツールとして説かれています。
要は、マネージャーとして組織の成果を最大化したかったら、1on1をうまくやれと。

これに影響を受けた僕は、当時CTOとして1on1をうまくやることに心血を注ぎました。すべての1on1で、前述の4つの業務のうち何を達成すべきかを事前に考え、挑む。これを繰り返すうちに、ピープルマネジメントや組織運営に手応えを感じるようになりました。

CTOからCEOになった時も、最初にやったのは各部署のマネージャーたちとの1on1でした。これは会社の機能を把握したり、各部署の状態やマネージャーの人となりの把握に非常に役に立ちました。

また、1on1で僕は上記の4要素を意識しながらも意図的に「ただ話す」こと、要は雑談をするようにしているのですが、ここから思わぬ収穫につながることもありました。例えば、CPOの安達さんとの1on1で雑談している時に「SmartHRからの通知が確認できるスマホアプリがあったら良くない?」という話になり、そこからプロトタイピングして製品化に至ったこともあります。このアプリは、この記事を執筆している時点で100万インストールを超えるヒットとなりました。

このように、1on1は確かに強力なツールであり、成果の最大化に大きく貢献する武器と認識して良さそうです。

罪(失敗事例・課題)

一方、冒頭でも書いた通り、すべての1on1が組織の成果最大化に資するほどの効果を出せているかというと、そうではないと思います。
僕が受け持つ1on1でも、準備不足により淡々とした業務報告で終わってしまうことも珍しくありませんし、社員からも「1on1が役に立っていない」という声はよく聞きます。この手のフレームワークは導入が容易な反面、油断すると「1on1をやっていれば良し」と手段の目的化がおきてしまう罠が潜んでいるのです。ここではいくつか、僕自身が陥ってしまった1on1の失敗事例を紹介します。

失敗事例①|情報伝達経路の複雑化

まず、1on1があることで不必要にチームの情報伝達経路を複雑化させてしまうということがあります。あるメンバーとの1on1で出たチームの課題を、僕が別のチームメンバーとの1on1で伝達役として振る舞うことで解決しようとして、必要以上に情報伝達経路と手間が増えてしまったのです。
さらに、気がつくと同じ趣旨のメッセージを各メンバーとの1on1で何度も話す、みたいなこともありました。これらは1on1ではなく、チームが集まる場で話しあえば一発で解決していたかもしれません。

似た例として、他のチームや部署に対する要望を1on1で受け取り、レポートライン上のマネージャーを通して伝達することもよくあります。1on1があるが故に、課題は1on1で話すべきという意識が生まれ、当事者同士で直接話して解決するという手段がとられなくなるのです。

これらの例は、1on1によって課題を吸い上げ、解決に向けてマネージャーとしてなすべきことをしているように見えますが、実はかなりの遠回りをし、無駄な時間をかけてしまっているダメな例です。

失敗事例②|「1on1待ち」による速度低下

定期で1on1が組まれることで「次の1on1で話そう」という意識が生まれ、情報伝達の速度が落ちる、というケースも良くあります。
これは1on1に限らず、定例会議全般で起こりうる課題です。一定のリズムで話す機会が設けられるのは良いことですが、非同期でもいいので早めに伝達した方がより大きな貢献につながることは多々あります。僕自身も、役員陣との1on1を定期でやることで、いつの間にかそれが情報収集のミニマムのサイクルになってしまっていて、「これもっと早く話しておけばよかった!」と思ったことが何度もあります。リモートで働いていると「オフィスで軽く話す」という機会が少ないので、なおさら意識した方が良い点です。

失敗事例③|1on1のメイン業務化

カレンダーが1on1で埋まってくると、いつの間にか「1on1をこなすこと」がメイン業務化してしまったこともあります。前述の『HIGH OUTPUT MANAGEMENT』では、ひとりのマネージャーが見れるメンバーの適正人数は6〜8人だと説かれています。

これは、人数が少なすぎるとマネジメントで成果を最大化できる幅が減るのと、多すぎると事前準備の時間が取れず効果的な1on1ができなくなる、という理由から導出された数です。いわゆるスパンオブコントロールですね。
ただ、現実は往々にして、兼務だなんだでこの上限を超える数のメンバーを管掌することがあります。そうするとカレンダーが1on1で埋まり、1on1に追われる日々となり、中長期のことをじっくりと考える時間が作れない……なんてことになってしまいます。

1on1は有効なツールであることには間違いないですが、定期的にやってくる1on1のアジェンダやゴールを事前に考える余裕がなくなっていたら、自身のマネジメントの範囲や業務を見直すサインです。なすべきこととその優先順位を棚卸ししましょう。

1on1は「ラグジュアリー」な時間の使い方である

ドラッカーは、成果を出すためには『自分の時間の使い方を考えろ』といいました。1on1は自分の時間をひとりの人に使うという点で双方にとって非常に「ラグジュアリー」な時間の使い方であると考えられます。

マネージャーのなすべき貢献は「組織の成果を最大化すること」です。今行っている1on1がこれにつながっていない感覚がある場合は、すぐに時間の使い方を見直すべきです。メンバーの成果を引き上げる手段は何も1on1だけではないのです。

前提として、僕はピープルマネジメントはテーラーメイドで行うのが理想だと考えています。全員一律の手法は存在せず、メンバーひとり一人の個性や状況に合わせて、カスタムしていくべきです。

1on1に関していえば、メンバーの習熟度に応じて頻度や時間を調整するのが理想です。例えば、入社したて、異動したて、役割が変わりたて、のようなメンバーがいれば高頻度で実施する。必要であれば毎日やっても構いません。
逆に習熟度の高いメンバーについては、3〜4週間に一度の開催でも問題ないことがあります。ハンズオンとハンズオフの使い分けですね。

チームやメンバーにとって一番最適なマネジメント手法を考え、実行し、効果測定をし、見直す。これを繰り返すことで少しずつ組織の成果は最大化されていきます。
また、成長している組織であれば、マネジメント手法も変わるはずで、逆にいえばマネジメント手法が変わっていない組織は成長していないともいえます。

1on1力を高めることの構造上の難しさ

ところで僕は、1on1を効果的に実行するスキルはとても習得が難しいものだと思っています。コーチングやメンタリングの技術を体系的に研修した人ならまだしも、自分自身も含め、「見よう見まね」で1on1をやっている人は少なくありません。

「何事にも初めはある」ので、見よう見まねで初めるのは悪いことではないのですが、1on1は構造上、行ったことに対するフィードバックが得られにくく、上達のサイクルが回りにくいという難点があります。

多くの1on1は上司と部下という関係で行われると思いますが、部下からすると上司がやってくれた1on1が役に立たなかったとしても、それを率直にフィードバックすることは相当躊躇われるものです。また、1on1はその様子が第三者に見られることがないので、1on1に長けた人から改善点をアドバイスしてもらうことも難しいです。

このような性質に鑑みると、「自分の1on1はうまくやれている」という自負を持つことはなかなか危ない気がします。「効果が出せているのだろうか?」という疑念を持ち続けるくらいが調度良いかもしれません。

1on1は本当に必要なのか?

1on1はこの10年でかなりの市民権を得た感覚があります。ただ、会社や人事にやれと言われたから定期的にやっている、このような感覚になってはいないでしょうか。

カレンダーが1on1で埋まり、それを忙しくこなしていると、なんとなくマネージャーとしてなすべきことをしている感覚が生まれますが、それらの1on1が事業の成長にどれほど直接的・間接的に貢献しているのか。あるいは、会社の未来を作る人材の育成にどれほど貢献しているのか。ラグジュアリーな時間の投資に見合った効果が出せているかは、常に考えた方が良いです。

1on1を推奨する『HIGH OUTPUT MANAGEMENT』はインテル株式会社の話ですが、NVIDIA社では逆に1on1を禁止している、なんていう話もあります。チップメーカー2社の対比が非常に興味深いですね。結局、1on1は手法でしかないので、「事業を伸ばすために1on1をどう活かすか」や「1on1が最善のツールかどうか」を考え抜けるかどうかなのだと思います。

この記事を読んでくださった方におかれましては、これを機に、今行っている1on1が果たしてどれくらいの効果を出せているか、他に最適な手段はないかを考えてみても良いかもしれません。

1on1の効果を確かめる手っ取り早い方法として、思い切って四半期くらい1on1をやめてみる、という方法をおすすめします。やってみて問題が起きれば再開すればいいですし、別のより効率的な方法で担保されればそれで良いわけです。僕も改めて、色々と考えてみたいと思います。

Appendix

僕の今期の目標に「社外発信を増やす」というものを設定しました。その一環でこの times_serizawa というコーナーを月に1〜2回のペースで更新していく予定です。僕のX(@masato_serizawa)で更新情報を流すので、ぜひフォローしていただけると嬉しいです!

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