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2026.04.20

AIを活用してクリエイティブになった気になってはいけない

こんにちは。SmartHR CEO の芹澤(@masato_serizawa)です。

AI、すっかり日常的に使うようになりましたね。ちょっとした検索から作業の効率化・自動化まで、程度の差はあれど多くの人が日々何かしらAIに触れているのではないでしょうか。

僕自身、AIを使うことで「自分が作りたいと思ったもの」を形にするスピードは格段に上がった感覚があります。

ただ、そのアウトプットの質はどうでしょうか。AIを使うことで、クリエイティブで、世の中に価値のあるものを作れているのでしょうか。

僕はまだ、ここには自信を持ってYesとは言えない状態です。

AIを使った結果、**いかにもAI風味な**なんだか薄味で無難な長大ドキュメントができてしまった。あるいは、そういうドキュメントを読まされた。なんて経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。

どうしてAIをもってしてもクリエイティブになれないのか。今回は、世の中ではまだまだ「速度向上」の文脈で語られることの多いAI技術について、果たしてその「質的向上」はどうなのか、というところを考えてみようと思います。

なお、本記事では便宜上「生成AI」や「LLM」等の技術をまとめて「AI」と呼ぶこととします。

クリエイティブとは何か

そもそも「クリエイティブである」とは、具体的にどのような状態を指すのでしょうか。この言葉は文脈によって解釈が分かれがちなので、AIの考察を進める前に、本記事での「クリエイティブであること」の定義を明確にしておきたいと思います。

まず、ビジネスシーンにおける活動の大部分は「問題解決」に費やされています。僕たちはさまざまなタスクをしているように見えますが、それらのタスクは抽象化してしまえば、何らかの問題を解決するための「アイディア」を考え、実行しているのだと言えます。

ただし、残酷なことにアイディアにも優劣があります。「素晴らしい企画だ!」とか「これは独創的だ!」と感嘆するようなアイディアは、その根底にある「問題設定」と、それを「解決する方法」の両方が優れているものであり、それが「クリエイティブである」と形容されるのです。

問題設定は正しいけど解法の実効性が悪い。すごいテクノロジーを使っているけど誰の問題も解決していない。ビジネスシーンにおいてこれらのアイディアは評価に値しません。
でも、こういうのよく見かけますよね。

以降、本記事では「クリエイティブである」ということを「利害関係者が納得する問題設定と、それを華麗に解決する方法が取られている状態」という定義の元に考察していきます。

AIでクリエイティブになれない悲しい現実

さて、ここからが本題です。僕たちはAIの力を借りることでクリエイティブになれるのでしょうか。

結論から言うと、僕は「クリエイティブな人はAIを使ってよりクリエイティブになり、そうじゃない人はそのままである」と考えています。少なくとも現時点(2026年4月)ではそう思います。その理由を説明します。

根拠1: AIはプロの「凡人」である

僕はよく、アイディアを考える人に「できるだけ少ない人数で尖った意思決定をして」と伝えます。独創性というものは、いろんな人の意見を取り入れてしまうと失われてしまい、結果的にカドの取れた凡庸なアイディアになるためです(もちろん、そういう平均的なアイディアが求められる場面もあります)。

現代の生成AIの基盤となっているLLMの本質は「次にくる確率が高い言葉」を繋げることです。つまり、生成AIが生み出すアウトプットは「統計的な平均」と言えます。AIが吐き出した最大公約数的なアイディアはまさにカドの取れた凡庸なアイディアであり、差別化や優位性を生み出したい時には使い物にならないことが多いです。

例えば、僕は絵を描くスキルを持っていないのですが、AIを使うことで欲しかったイラストを雰囲気で生成できるようになりました。ただし、僕の知識でAIに出せる指示には限界があり、僕のプロンプトで生み出されるイラストは、どこまでいっても「量産型」で「フリー素材感」のある平凡なものとなっています。同様のことはコード生成やドキュメント生成など、AIとの共同作業全般で発生するでしょう。

また、「天才」と称されるクリエイティブな人の出すアイディアは、統計的には「ハズレ値」であることが多いです。というか、普通の人なら思いつかないような「ハズレ値」のアイディアで勝負をして勝つから天才になれるのです。AIが出力する平均的なアイディアで勝負する限り、凡人は凡人のままなのです。

(最近よく見かけるAIが生成した無味無臭の挿絵。全くクリエイティブではないですね)

根拠2: AIはデジタル化された世界の一部しか知らない

AIはなんでも知っているかのように振る舞います。それは前述の通り、LLMが「次にくる確率が高い言葉」を繋げることが得意だからです。しかし、実際AIが学習していることは、現実世界に存在する情報のうち、デジタル化されたほんの一部にしかすぎません。

一般常識、社会通念のようなものには詳しいでしょう。実際、スタートアップでしか生きたことのない僕よりも、AIの方がビジネスメールや議事録を書くのが上手です(いつもありがとうな)。

ただし、組織や市場固有のコンテキストはほとんど知りません。プロンプトで与えるにしても限界があります。僕らの生きる世界は、僕らが思っているより多くの情報で溢れていて、どんなにデジタル化を頑張っても、「現場で流れる空気感」「相手の微細な表情の変化」「五感で感じる違和感」などは削ぎ落とされてしまうのです。

これらの情報が削ぎ落とされることによって、問題設定の質が落ちることがあります。
優れた問題設定には、しばしば「良くそんなことに気が付いたなぁ!」という驚きと感嘆が伴いますが、AIの出すアイディアに驚くことはありません。素晴らしいアイディアは、みんなが見落としていたような事象に着目し、それを問題として提起したと言い換えられます。この発想に至るためには、周囲の人が何を考え、どう動き、何に困っているのかを細かく観察する必要があります。

マッキンゼーで用いられている「ソラ・アメ・カサ」という課題解決のための思考のフレームワークは、「ソラ」として事実・状況を客観的に観察するところから始めます。
「OODAループ」という俊敏な意思決定をするためのフレームワークも、起点は「Observation: 観察」です。

僕たちの周囲のことを細かく観察できないAIには、僕たち以上の的確な問題設定はできません。そうである以上、AIの解答を最適解とした時点でクリエイティブになるはずがないのです。

クリエイティブになるためにできること

ここまで、AIを手にしてもクリエイティブになれるわけではない、ということを考察してきました。
逆説的なことを言いますが、AIをうまく使えばクリエイティブになれる可能性が溢れているとも考えられるので、そのためにやるべきだと思っていることを書いていきます。

自ら足を使い、考え、独自の一次情報を獲得する

偉大な賢人たちが口を揃えて言っていますが、アイディアとは「既存の要素の新しい組み合わせ」です。
スティーブ・ジョブズが「Connecting the dots」と言っているように、僕らが良いアイディアを生むためにできることは、日々いろいろな情報を集め、解くべき問題を見つけた時に繋げられる点の数を多くストックしておくことなのです。いわゆる企画職の人は「線を引く」ことに意識が向きがちですが、そもそもストックしている点が少ないと線を引くパターンも限られてしまうのです。

そして、重要なのは、集める情報というのは独自であればあるほど、独創性のある線が引けるようになるということです。インターネットで手軽に収集できる情報は、他の人も同様に収集できます。

SECIモデルを提唱した野中郁次郎先生は、著書『知識創造企業』の中で、対話を通して暗黙知を共有しあうことの大切さを説いています。ユーザーインタビューや現場観察、ミーティング前後の雑談や立ち話、飲み会のような場でも、暗黙知獲得のチャンスは溢れています。ただ、そのチャンスは僕たちが能動的に行動を起こして人と接触し、そして、能動的に思考していないと生まれません。

つまり、クリエイティブなアイディアは部屋にこもっていても生まれず、外の世界と触れ合うことで生まれるのです。

AIを活用してフィードバックサイクルを加速させる

ここまで散々「AIを使ってもクリエイティブになれない」と書いてきましたが、AIを「ツールとして使いこなす」ことはクリエイティブになる上で必要不可欠です。

冒頭にも書きましたが、AIを使うことで「自分が作りたいと思ったもの」を形にする速度は圧倒的に早くなりました。マーク・ザッカーバーグは「Done is better than perfect」と言い、不完全でも良いのでスピーディに作って、フィードバックサイクルを早めることの大切さを説きました。AI時代において「良いもの」を作る人は、各種AIツールの使い方をマスターし、高速で試行錯誤をする人たちであることは間違いありません。

日々進化するAI技術やツール群をきちんと継続的に学習して使いこなし、さらにはそれを武器にして自らの仕事のやり方を再定義する。これはよく言われることですし、実践している人も多いでしょう。
ただし、大切なのは「作る速度を早める」ことに加えて「フィードバックサイクルを早める」ことまで実行することだと考えています。

AIを使って誰よりも早くアウトプットを作り、誰よりも早く失敗し、誰よりも早く正解に辿り着いた人が、AI時代における「クリエイティブな人」となるのです。

AIは「筆」 それで何を描くかが重要

人類はAIという超高性能なツールを手にしました。ただし、それを使って何をするかは、どこまで行ってもツールを使う人に委ねられているのです。めちゃくちゃ良い筆と画材を手にしても、表現したい想いがなければ良い絵は描けません。

AI時代においても、クリエイティブの源泉は僕たちの中にあります。

AIは雑に投げかけても、それっぽい答えを返してくれます。
でも大切なのは、「AIに何を言わせるか」を考える前に、「自分は何を見て、聞いて、触れて、感じたか」を問い直すことにあると思います。

世の中の人はどんなことを求めていて、どういう解決策であれば驚き、喜んでくれるのか。

自分で足を使って体得した情報をもとに問題を設定し、解決策を考える。その問いが自分の中にあれば、AIは最高の壁打ち相手になってくれますし、素早く形にする良き相棒にもなってくれます。

実は、脳波を用いた研究でも、「外れ値なのに、なぜかしっくりくる」アイディアを考えるのはAIより人間の方に優位性があるという結果が出ています。
逆にいうと、「平均的な解」を出す能力はすでにAIが人間を上回っているんです。

これから先、AIに代替されないために、クリエイティブな「外れ値」のアイディアをどう出していくかにこだわることが重要です。

僕自身も、泥臭く一次情報を獲得し、自分の感性を磨いていこうと思います。

果たして、この記事はクリエイティブだったのでしょうか。
引き続きXやこのブログで情報発信をしていきますので、ぜひ @masato_serizawa をフォローしていただけると嬉しいです!

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