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財務、人事、テクノロジーが溶け込み広がるCFOの役割 ─事業成長を牽引する組織のあり方と生産性

2026年、SmartHRは事業領域制への移行や人事組織の管掌変更など、組織体制に大きな変化を加えました。M&Aも継続的に進めながら、2030年に向けた事業戦略の実現に向けて新たなフェーズへと歩みを進めています。

こうした変化のなかで、CFOに求められる役割も広がっています。財務戦略だけでなく、人事戦略やAI活用、生産性向上までを視野に入れながら、事業成長を支える組織のあり方をどう設計していくのか。事業戦略の実現に向けて、あるべき姿はどのようなものか。変革をリードしていく森雄志CFOに、その考えを聞きました。

株式会社SmartHR 取締役CFO 森 雄志
2016年、楽天株式会社(現楽天グループ株式会社)入社。IR部に所属し、国内外の投資家面談や決算関連業務、株主総会対応、M&A、資金調達などIRを中心に幅広いコーポレートアクション業務に携わる。2020年3月にSmartHRに入社。海外投資家対応をはじめ、資金調達や資本政策など財務戦略の策定を担当。2023年10月より現職。

SaaSの先にある顧客の課題を見据えて─「SaaS企業」の枠を超える新しいフェーズへの挑戦

—現在、CFOとして2030年に向けた次のフェーズをどのように捉えていますか。

私がCFOに就任した2023年当時は、まず事業基盤をしっかり固めることが大きなテーマでした。2024年には約214億円のシリーズEラウンドを実施するなど、売上成長と利益成長を両立する「クオリティグロース」を進めてきました。

2025度には黒字化を達成し、高い成長率も維持できています。まだ道半ばではありますが、成長に向けた土台づくりについては一定の成果を出せたと考えています。

そのうえで現在は、今後5年、10年の成長に向けた投資フェーズへ舵を切りました。特に注力してきたのがM&Aです。専任チームを組成し、この1年余りでSmartHRとしてはグループ会社含め5件のM&Aを実行しました。将来の成長に向けた種まきを進めている段階だと捉えています。

—この1年で5件というハイペースでM&Aを進めてきました。どのような手応えを感じていますか。

業績へのインパクトという意味ではまだこれからですが、組織としてのM&Aの練度は大きく上がったと思っています。

M&AはソーシングからPMI(Post Merger Integration:M&A後の統合プロセス)、カルチャー統合まで、実際にやってみないとわからないことが数多くあります。複数案件を経験したことで、どのような会社と出会うべきか、経営チームととどうタッグを組むか、PMIをどう進めるかといったノウハウが組織に蓄積されました。その結果、M&Aを特別なイベントではなく、事業戦略を実現するための一つの手段として位置づけられるようになったことは、この1年の大きな進歩だったと思います。

また、2030年に売上1,000億円を目指すうえで、M&Aは必要な打ち手でもあります。各事業領域と議論を重ねながら、今後2〜3年で実行必要なM&A戦略を整理したうえで進めてきたため、それぞれの事業戦略に紐づいたM&Aをタイムリーに実行できたことも大きかったですね。

—M&Aや新規事業の拡大によって、SmartHRそのものも変化していますね。

なかでも一番大きな変化は、事業成長の手段が増えたことだと思います。

もともとSmartHRは、人事・労務領域のSaaSを開発・提供することで成長してきました。しかし現在は、タレントマネジメントや給与計算、勤怠管理、情シス支援、AI関連プロダクトなどへと領域が広がり、より多様な顧客課題に対応できるプラットフォームへ進化しています。

さらに、M&Aを通じてBPOやコンサルティングといった、従来のSaaSとは異なるソリューションも加わり、SaaS以外の課題解決手段そのものが多様化している状態です。

私たちのコアソリューションはSaaSではありますが、そのビジネスモデル自体にこだわっているわけではありません。SaaSはあくまで顧客課題を解決するための手段です。だからこそ、必要であれば別のソリューションも提供していくべきだと考えています。

近年はAIの登場によって、SaaSというビジネスモデル自体の優位性を問う声もあります。しかし、顧客が抱える課題そのものは変わりません。人手不足やDX、生産性向上、ガバナンス強化といったニーズは今後も存在し続けます。私たちが向き合うべきなのはSaaSという手段ではなく、その先にある顧客の課題です。だからこそ、SaaSだけでは解決できない課題に対しても、複数の手段を組み合わせながら価値を提供していく必要があると考えています。

—その先で、SmartHRはどのようなポジションを目指しているのでしょうか。

私たちが目指しているのは、お客さまの課題解決に伴走する存在です。

バックオフィス部門は企業の屋台骨でもあります。一方で、少ない人数で業務を遂行している中、人手不足によって「来週までに何とかしなければならない」という課題が突然発生するケースも少なくありません。そうしたときに、「まずSmartHRに相談してみよう」と思っていただける存在でありたい。SaaSだけでなく、コンサルティングやBPOも含めて最適な解決策を提供できる、“バックオフィスのオールラウンダー”のようなポジションを目指しています。

事業戦略を実現するための経営基盤と生産性

—AIをはじめとしたテクノロジーの進化によって、企業の生産性向上のあり方も大きく変わりつつあります。森さんは現在の状況をどのように捉えていますか。

AIが社会に浸透していく流れは、間違いなく避けて通れない不可逆的なトレンドです。私たちSmartHRも、提供するソリューションへのAIの組み込みや、BPOサービスへの活用などを進めていますが、それ以上に重要なのは、AIによって組織そのものがどう進化していくかという視点の獲得です。

AIによって自分の仕事がどう変わるのか、不安を感じている方も多いでしょう。しかし重要なのは、AIをどう組織に実装し、生産性向上につなげるかです。SmartHRとしては、AI実装を組織課題と捉え、人事コンサルティングや各種ソリューションを通じて、企業のAI活用にも伴走できる存在になりたいと考えています。

—一方で、自社の生産性向上という観点ではどのような課題を感じていますか。

今は「AIをまずは使うこと」からさらに一段階進んで「AIをいかに賢く使うか」が重要なフェーズに入っていると思っています。

そのためには、AI活用の練度を上げていかなければなりません。どの業務を自動化し、どのツールを選ぶべきか。セキュリティの担保やコスト管理も含め、これらを組織として設計・推進していく必要があります。個人が試しに使ってみるだけであればシンプルですが、1,500人規模の組織で活用するとなると話は別です。コストやセキュリティといった観点も含めて、組織として高いレベルで管理できるかどうかが競争力の源泉になってきます。

現在は私のCFO直下にAIオペレーション室を設置し、社内でのAI活用の整備を進めています。組織設計やガバナンスのあり方も含めて、試行錯誤しながら最適解を探っているところです。

—CFOとしても、AIは重要なテーマになっているのでしょうか。

非常に重要なテーマですね。私は現在、人事と財務の両方を管掌していますが、その両方に深く関わるテーマとしてAIがあります。今後は、AIツールをどれだけ賢く、そして数多く活用できるかが組織の強さを左右していくと思っています。

その一方で、AI活用を広げるためにはコストも伴います。現在は比較的安価に利用できるツールも多いですが、将来的にはコストが上昇していくことも想定されます。そうした環境変化を見据えながら、AI活用を支えられるだけの強固な財務基盤をつくることも、これからのCFOに求められる役割だと考えています。

これまでスタートアップは、人を採用し続けることで成長してきました。しかし今後は、AIをどれだけ賢く活用できるかが企業の成否を分ける時代になっていくでしょう。その変化を前提に、事業と組織の両面から準備を進めていきたいと思っています。

事業戦略から逆算した組織の再設計 ─ 2026年からの組織再編の手応え

—2026年1月から、SmartHRは新しい組織体制へ移行しました。今回の再編には、どのような狙いがあったのでしょうか。

大きな変更として、1月から「事業領域」という組織を新設しました。

(※画像内の事業領域は、事業本部単位で掲載)

いわゆる事業部に近い概念ですが、直接の販売機能は持たないため、バーチャルな事業部のような位置づけです。各事業領域は、それぞれの領域における事業戦略、プロダクト戦略、サービスの設計・開発に責任を持ちます。今回こうした組織をつくった背景には、大きく二つの理由があります。

一つは、経営人材を育てる必要があったことです。従来の体制では、究極的には各事業の戦略やPL責任を持つ人がCEOしかいない状態でした。そのままでは、事業責任を担う経営人材が育ちにくいという課題がありました。

もう一つは、事業領域が増えたことです。SmartHRの中には複数の領域があり、それぞれ競争環境も市場環境も異なります。すべてをひとまとめにして事業戦略を考えるには限界がある。そこで、各領域ごとに戦略やプロダクト・サービス設計を考え、それに責任を持つ組織をつくりました。経営としては、それぞれの戦略をレビューし、リソース配分やモニタリングを行う体制に変更しています。

ARRが200億円を超え、SmartHRという一つの会社の中に複数の企業が存在しているような状態になってきた。そう考えると、ある種ホールディングスに近い発想とも言えるかもしれません。

—一方で、営業組織は企業規模ごとの体制を維持しています。そこにはどのような意図がありますか。

SmartHRでは複数のソリューションを提供していますが、販売先は主に人事領域の方々です。そのため、人事のお客さまに相対している営業が、複数のプロダクトやサービスを複合的に提案することが最も効率的だと考えています。つまり、事業領域と企業規模ごとの営業組織を掛け合わせた、マトリクス型の組織体制を採用しているということです。

—新体制が始まってから数カ月、現時点での手応えはいかがですか。

結論としては、やってよかったと思っています。事業領域ごとの組織をつくったことで、それぞれの事業戦略について経営としてより深く議論できるようになりましたし、戦略自体も洗練されてきていると感じます。

一方で、マトリクス型組織には、コミュニケーションや権限の複雑性が生じます。そこは避けられない部分でもあるので、できるだけ摩擦を少なくしながら、事業戦略を前に進められる組織運営を考え続けています。

財務、人事、AIをつなぐ。広がるCFOの役割

—新しい組織体制への移行と同時に、財務×人事の連動がテーマだとお聞きしました。どのような背景があったのでしょうか。

もともと人事はCEOの管掌でしたが、2026年1月から私の管掌になりました。背景にあるのは、人事とCFOラインの連携をもっと深める必要があると考えたことです。当社のようなITサービス企業では、人件費がコストの大半を占めています。つまり、コスト計画や予算計画と、採用計画や人員計画はほぼ一体のものとして捉える必要があります。

もともとCFOラインにはFP&A(経営管理・予算管理)の機能がありましたが、そこに人事機能をより密接に連携させることで、経営目標や事業戦略と人事戦略を一体で考えられるようにする。その実現に向けたSmartHRなりの答えが、CFOが財務と人事の両方を統括する体制です。

—SmartHRも事業の拡大とともに変化を続けています。その中で、組織づくりにおいて大切にしている考え方はありますか。

私は、組織戦略や人事制度は事業戦略に従うものだと思っています。

経営目標が変われば、組織の形も、人事制度も、採用戦略も変わる。それはごく自然なことです。実際、SmartHRでも事業の広がりに合わせてさまざまな変化が起きていますが、その背景には必ず事業戦略や経営目標の変化があります。あくまで戦略と組織は主従関係にある。その考え方はとても重要だと思っています。

ただ一方で、変えてはいけないものもあります。私は、組織の9割は変わっていくべきだと思っていますが、残りの1割は変えてはいけない。その1割が、バリューやカルチャーのような組織の土台にあたる部分です。

—その変えてはいけないカルチャーについて、森さんはどのように考えていますか。

CFOとして特に大切にしたいと考えるのは、経営目標や事業戦略の透明性です。

SmartHRは今、人事労務だけでなく、タレントマネジメントや情シス領域、AI、BPO、コンサルティングなど、提供するソリューションが大きく広がっています。その分、社内から見ても、会社全体として何を目指しているのかが見えづらくなっている部分もあると思います。だからこそ、この会社が誰のどんな課題を解決しようとしているのか、そのためにどんな戦略を描いているのかを、丁寧に伝え続けることが重要です。

従業員が、「自分の仕事は社会の価値につながっている」と腹落ちした状態で働ける組織は強い。だからこそ、戦略を腹落ちできるだけの情報提供はおろそかにしないようにと意識しています。

—CFOとしての役割も、従来の財務領域を超えて広がっています。

そうですね。今は人事戦略、財務戦略、AI戦略を総合して考えなければいけない立場になっています。ただ、私の中ではそれらは別々の課題ではなく、すべてシームレスにつながった一つのテーマです。

たとえば、AIを組織に浸透させようとすると、人材に求められるスキルも変わります。そうすると採用や育成のあり方も変わりますし、それを実現するための投資判断や財務戦略も必要になります。逆に、人事戦略を考えるときも、AIによって組織がどう変わるのか、どのような財務基盤が必要なのかを同時に考えなければなりません。

これまでは、それぞれ独立した領域として語られることが多かったと思います。しかし今は、組織の成長を考えるうえで、それらがどんどん溶け合ってきている感覚があります。

私自身、CFOに就任した当初は、ここまで役割が広がるとは想像していませんでした。ただ、財務、人事、AIという異なるテーマを一つの経営課題として統合的に捉えられることは非常に面白いですし、その変化のど真ん中にいられることに大きなやりがいを感じています。

なにより、それを一人で考えるのではなく、それぞれの専門性を持った強いチームと一緒に解いていけることが面白い。会社の成長に合わせて、自分自身の頭の使い方も進化していく感覚があります。

これからAIの進化によって、企業の経営のあり方や組織のつくり方は、これまで以上のスピードで変化していくと思います。そうした環境の中で、財務、人事、テクノロジーを別々に考えるのではなく、一つの経営課題として捉えながら、会社としての最適解を探し続けていく。その挑戦は、これからますます面白くなっていくのではないかと思っています。

編集・写真/okie(広報)

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