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2025.08.27

他責は楽だが損をする

こんにちは。SmartHR CEO の芹澤(@masato_serizawa)です。

前回の記事『1on1の功罪について』はとても多くの方に見ていただきました。ありがとうございます! まだご覧になっていない方がいましたらチェックしていただけると泣いて喜びます。

さて、突然ですが「当事者意識を持て」という言葉を、会社、そして社会のさまざまな場面で言われたり聞いたりしてはいないでしょうか。

当事者意識(主体性やオーナーシップ、自責思考とも言われる)は、持つことがなにかと求められがちな割に、「それを持つための具体的な方法」や、「持つことによって得られる効用」まで一緒に語られることは少ないようにも思います。求めるだけ求めて、その解決策やメリットは言わない。これは良くないですね。

実際、言われた側からすると、当事者意識を持つというのは典型的な「言うは易く行うは難し」であり、「そのやり方を知っていたら苦労しないんだけどな」というのが正直なところですよね。

かく言う僕も、マネジメントという役割を拝命してからは、メンバーやチームに「当事者意識を持ってほしい」というようなことを伝えつつも、そのhowの部分はお任せすることがほとんどだったことをここに告白します。

というわけで今回は、なかなか語られることのなかったこの当事者意識について、これを持つことによってどんな良いことがあるのか。そして、持つためにはどういう工夫をすれば良いのかを、自分の経験から分かったこともふまえて考えてみます。

当事者意識は生きがいにつながる

結論からいうと、当事者意識を持つ最大の効用は、仕事や人生の主導権を自分自身で握り、目的意識を持って楽しめるようになるということです。

いきなり壮大な話になったと思われたかもしれませんが、これは決して大げさな表現ではありません。

哲学者の國分功一郎氏は著書『暇と退屈の倫理学』の中で、人生を楽しむ唯一の方法は、「能動的に思考することだ」といいました。思考せず、受け身の姿勢で過ごす日々はあまりにも無味乾燥としていて、退屈してしまうと。

ただ、「自分がどうしたいか」という確固たる想いを持ち、能動的に物事に取り組んでいくことは簡単なことではないです。

これを解決するのが当事者意識です。

どんなに小さなことでも良いので、まずは目の前のタスクに対して多少無理してでも当事者意識を持って取り組んでみる。これを繰り返すことで、徐々に様々なことに能動的に取り組めるようになり、結果として仕事や人生に目的意識が芽生え、そのコマを自分主導で進めていくことを楽しめるようになると考えています。

僕自身も、昔は自分のやりたいことがよくわかっていなく、日々を受動的に消費していました。ただ、SmartHRというスタートアップに飛び込んで、様々なことに当事者意識を持ち、「自分に他にできることは何か」を問い続けることで、次第に「自分がどうしたいか」が見えてきた感覚があります。入社当時は世の中の働き方はおろか、人事労務に対する興味関心もほとんどなかったのですが、今となってはこの領域でやりたいことが尽きず、能動的に日々の業務を楽しんでいます。

多くの人は「やりたいこと」が先にあって、その上に行動がある、と考えますが、実は因果関係は逆なのかもしれません。与えられたものでも良いので、目の前のことに当事者意識を持って取り組むことで、その結果やりたいことが見つかるんじゃないか、とすら考えています。

他責思考の罠

当事者意識を持つことを難しくする要因に「他責思考の罠」があります。他責思考とは、当事者意識の対になる概念です。

当事者意識を持つということは「責任を負う」ということであり、辛い側面もあります。それ故に、何かうまくいかないことがあると、人はついつい責任から逃れ、「自分は悪くない」という他責思考のパターンをとってしまいます。

これはある種の防衛本能的なものであり、人間であれば誰もが等しく陥る現象です。僕自身も、何か組織で問題が発生すると「あれは自分の管掌からは遠いところだしな…...」とか、自分の主張に対して腑に落ちない反論が来ると「この人はこの事についての解像度が低いからな…...」とか、そんな考えが頭をよぎってしまうことが多々あります。

この他責思考は、辛さを回避するという点では便利なツールなのですが、前述の通り当事者意識を持つことによって得られる効用を失うことにつながります。責任を逃れることで短期的には楽になりますが、長い目で見ると、それは仕事や人生を退屈なものにしていくのです。

まさに「他責は楽だが損をする」です。

当事者意識を持つための4つの工夫

では、他責思考の罠を回避し、当事者意識を持つためにはどうしたら良いのでしょうか。前述の通り、僕はSmartHRというスタートアップに飛び込むことで半ば強制的に当事者意識を得たわけですが、そんなSmartHRも今となっては1,500人規模の大きな組織です。規模が大きくなる中でも当事者意識を持ち続けるためにとってきた自分なりの工夫を4つ紹介します。

1. 能動的に考えられるきっかけをつくる

スティーブ・ジョブズは毎朝鏡の前で「今日が人生最後の日だとしたら、何をやるべきか?」という問いを立てていたといいます。これは、自分にとって何が大切かを問う質問ですが、同時に、今自分がやっていることの必要性や妥当性を問い、当事者意識を持つための質問でもあります。

似たような例として、弊社のCFOの森さんは「今日自分がクビになって別の人がこのポジションについたら、その人は最初に何をするだろうか?」と問うと言っていました。この問いは、ついつい自分が後回しにしてしまっている「大変だけど果たすべき役割」に目を向ける機会になると思います。

ちなみに僕は、ドラッカーの「汝の時間を知れ」という言葉を頭の中でリフレインさせつつ、毎朝自分のカレンダーをみて、スケジュールの棚卸しと、それぞれに当事者意識を持って取り組めているかどうかのセルフ診断をしています。

日々のタスクに忙殺されていると、それをこなすことで精一杯になり、いつの間にか受動的に過ごすようになってしまいます。人間の脳はどうしても易きに流れてしまうので、そこから能動的な思考に転換するのは一筋縄ではいきません。ここで紹介したような問いや呪文を定期的に唱えることで、客観的に状況を捉えて能動的に思考することが、当事者意識を持つ第一歩になると考えています

2. 他責思考のサインを検知する

他責思考の兆候は言動の節々に現れるため、意外と簡単に診断できます。
例えば、以下のような思考や発言をしている場合は、他責思考に陥っている疑いがあります。

  • 「〜が思うように動いてくれない」

  • 「〜がないから難しい」

  • 「自分は〜しているのに」

  • 「これは上が決めることだから〜」

  • 「これは自分の仕事ではなく〜」

このような兆候を見つけたら、自分が他責思考の罠に陥ってしまっていることを素直に認め、どうしたら当事者意識を持てるか、自分に他にできることがないかを考えるようにしましょう。

また、要注意なよくある行動パターンとして「犯人探し」があります。これはチームでよくみられる、何か問題が起きたときにその原因となった人を明らかにするような動きです。一見、責任の所在を明確にする全うな行動に思えますが、特定個人に責任を押し付けることを集団でしてしまう、集団での他責思考かつ、怖い行動です。

哲学者のニーチェは「狂気は、個人にあっては稀有なことである。 しかし、集団にあっては通例である」といいました。問題が深刻であるほど、狂気的な犯人の吊し上げも起こりやすくなりますが、これはチームに何も建設的な行動をもたらさないどころか、当事者意識から最も遠い行動ですので、避けるべきです。

3. 自分の周囲で起こるあらゆることに自分が影響していると考える

「バタフライ・エフェクト」という映画を観たことがありますか? これは主人公がとった行動が思わぬ影響を生み出し、未来が変化していくタイムリープものの映画です。これは同名の現象・理論が元になっていて、「ブラジルで飛ぶ蝶のはばたきがアメリカで嵐を発生させる」みたいなフレーズを聞いたことのある方も多いかと思います。

何か問題が発生したときに、「自分とは無関係だ」や「自分には何もできない」と思わずに、自分のちょっとした言動や、ミーティングでの一挙手一投足がそこに影響している可能性はゼロではないと考えてみることが大事です。見て見ぬふりをせずに何かのアクションを起こせば、巡り巡ってポジティブな方向にことが少しずつでも進んでいくかもしれません。もしかしたらそれは自分の感知しないところで起きているかもしれません。

身の回りで起こる様々な出来事に、良くも悪くも自分が影響を与えていると考えることで、「自分にできることはなにか?」と当事者意識が持ちやすくなります。

4. 自分だけの『裏目標』を設定する

組織には全体でのパーパスやミッションがあり、組織に属する人にはそこから落とし込まれた個人の目標が設定されると思います。組織がやろうとしていることへの共感はとても大事であり、多くの人が組織を選ぶ際の軸にしていると思います。

ただ、組織のパーパスやミッションは、一個人としては壮大すぎることが多く、それ自体はなかなか自分ごと化しにくいものです。日々の業務は得てしてそれらの達成に対して間接的に貢献するものであり、そこに忙殺されるうちにやりたかったことを見失う、なんてこともざらです。

僕はよく、これに対して自分だけの”裏目標”を持つようにしています。裏目標を設定するポイントは、魂の底からフツフツと沸き上がる感情を元にすることです。例えば、「〜を見返してやる」とか「〜を変革してやる」とか、そういうものです。この裏目標は憤怒や怨恨のような個人的な欲望にまみれたものが良いですが、前提として、表向きの目標とは文字通り表裏一体であり、どちらかが達成されればその逆側も達成される関係であるべきです。

問題や辛いことが起こった時に、表向きのキレイで壮大な目標はあまりにも脆弱です。どんな場面でも自分を奮い立たせてくれる裏目標を持つことで、目の前の様々なことが自分ごと化され、自然と当事者意識が身に付く、ということは大いにあると思っています。

マネジメント側の心得

ここまでは個人として当事者意識を持つための方法を書きましたが、マネージャーとしてチームや部下に当事者意識を持ってもらうためにはどうしたらいいでしょうか。

もちろん、上記のような工夫を各メンバーに求めるのも効果的かもしれません。

ただ、気をつけるべきは、チームや部下に対して「もっと当事者意識を持て」と言っていること自体が、他責思考の罠に陥っているということです。

当事者意識を持っているマネージャーであれば、「チームが当事者意識を持てていないのは自分に原因がある」と考え、その上で「では自分には何ができるか」という発想になります。

「やること」だけではなく「なぜやるのか」もきちんと伝えられているか。伝えるだけじゃなく、腹落ちを作れているか。チーム全体が熱狂し、前向きにタスクに取り組める雰囲気を作れているか。メンバーのふとした悩みを察知できているか。

マネージャーの一挙手一投足はチームの当事者意識に大きく影響するので、マネージャーこそ、まずは当事者意識のセルフチェックを意識することが大事になります

当事者意識のすすめ

以上、当事者意識を持つ効用とその方法を整理してみました。

ところで、他責思考・自責思考というときの「責」は、「せめる」という意味を持ってそうで、どこかネガティブな印象を受けませんか?

「責」には「つとめを果たす」という意味もあり、僕はこっちで考える方が良いと思っています。何か至らぬ点を責めるのではなく、然るべき役割を全うするのであるという前向きな気持ちで挑むのです。

冒頭でも書きましたが、当事者意識を持つことの最も大きな効用は、スキルアップでもキャリア開拓でもなく、仕事や人生が楽しくなることです。働きがいや生きがいを見つける第一歩として、まずは当事者意識を持って目の前のタスクに取り組みはじめてみてはいかがでしょうか。少しずつなにかが変わっていくかもしれません。

Appendix

前回の記事で宣言した通り、月に1〜2回のペースでこのコーナーを更新していく予定です。今のところ順調です!引き続き僕のX(@masato_serizawa)で更新情報を流していきますので、ぜひフォローしていただけると嬉しいです!

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